コンフィデンシャル/共助

「コンフィデンシャル/共助」の一場面。北朝鮮の刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)の活躍は目覚ましい (C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
つい、この間までの北朝鮮非核化をめぐる厳しい対立がウソのような南北対話モードである。「(北の)体制の安全が保証されれば核を保有する理由がない」というキム・ジョンウン委員長による衝撃の提案。「だったら、最初から言ってよ」という言葉をのみ込み、この気運をとらえての南北首脳会談が4月にも開催される雲行きだ。またいつもの時間稼ぎなのか、それとも今度こそ本当の和平実現への入り口となるのか、予断は許されないが、映画の世界では様々な南北融和の試みが描かれ出している。本作もその一つである。
日本でも人気のテレビドラマ「王の涙 イ・サンの決断」のヒョンビンと、最近は脇役よりも主役としての活躍が目立つユ・ヘジンが、互いに警戒しつつ国際捜査に協力して行く北朝鮮と韓国の刑事を演じたアクション娯楽大作だ。そこに人情味を感じさせるエピソードを盛り込んで奥行きのある作品に仕上がっている。

韓国の刑事ジンテ(ユ・ヘジン)は失敗してばかりだ (C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
北朝鮮の刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)はアメリカドルの偽札製造グループを摘発中に、上官チャ・ギソン(キム・ジュヒョク)の裏切りに遭い、仲間だけでなく妻まで殺されてしまう。ギソンは韓国に飛び、偽札を製造できる銅版を犯罪組織に売り込もうとする。事件が明るみに出れば国の信用は失墜すると考えた北朝鮮当局は銅版を取り返すためチョルリョンを韓国に送り込む。さらに北朝鮮は韓国と極秘に“南北共助捜査”の契約まで交わし、国際犯罪者ギソンの逮捕に躍起となる。しかし韓国は北朝鮮の真意を探ろうと、ジンテ(ユ・ヘジン)に偽装捜査を命じてチョルリョンを監視し始める。南北警察の駆け引きに加え、凶悪犯罪グループも交えた三つどもえの暗闘がし烈化する。

チョルリョンは危険な捜査も意に介さない (C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
見所は国が南北融和を標榜しつつ、本音はそれぞれ別のことを考えている本作のようなケースで、組織の論理と個人的な感情のあつれきが生じた場合に、それをどうリアルに見せているかというところだろう。
本作では、ヒョンビン扮するチョルリョンの感情を押し殺したクールなまなざしや、凄味あるアクションに目がハートになったジンテの妻や義妹らが醸し出すアットホームな雰囲気に、愛妻を殺されて心の傷が癒えないチョルリョンが微妙に反応してしまい、それが映画の後半で効いてくる。

捜査の妨害になるからとチョルリョンに手錠まで掛けるジンテ (C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
一方のジンテを演じるユ・ヘジンは、脇役で培った、時にユーモラスで不甲斐ないダメ男ぶりに磨きがかかり、同じ刑事でも、北はイケメンでクール、かつアクションも含め一流の刑事というキャラクターなのに、主役を盛り立てる脇役のような設定。南の作品ながら北には優秀な刑事がいると持ち上げる形の作品であることも面白い。もちろん、ジンテがチョルリョンにかなわぬ面はあっても後半、「人間力」を発揮し、お互いの窮地を救ってバランスを取っていく展開は見ていて楽しい。
韓国では「シュリ」「JSA」など北の工作員や兵士を悪魔ではなく一個の感情ある人間として描く作品が1990年代後半から作られはじめ、それがともに当時としては記録的な観客動員を果たし、娯楽大作で南北を「公平」に描くという「伝統」が生まれた。それから20年近くたち、現実が足踏みを繰り返し、逆に後退しがちなのは残念なことだが、せめて映画の中では南北融和という「果実」を味わいたいものだ。

ジンテの家に居候する義妹(「少女時代」のユナ)は北の刑事にぞっこんだ。 (C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
さて、ヒョンビンが軽やかに見せるアクションはスマートで見ごたえがあるが、やはり印象に残るのはアクションの合間に見せる深い悲しみを秘めた眼差しだ。厳しい任務と感情の葛藤。そんなとき、ふと漏れる笑みに思わず引き込まれ、感情移入してしまうファンもいるだろう。
もう一方のユ・ヘジン。一度見たら忘れられない個性的ないかつい顔の彼は、「LUCK-KEY ラッキー」(18年)で主役を演じて一気にブレーク。以後、「コンフィデンシャル/共助」「タクシー運転手」と出演作が記録的なヒットとなり、今や韓国における「興行収入記録俳優」の主要メンバーに躍り出ている。
また「ビューティー・インサイド」にも出演し、昨年10月に事故死したキム・ジュヒョクやアイドルグループ「少女時代」のユナらも出演している。
シリアスとアクション、そして笑いという緩急自在な展開を小気味よく繰り返していく脚本のうまさが、それにふさわしい演じ手を得て、魅力を増している。
「コンフィデンシャル/共助」はシネマート新宿ほか全国順次公開中【紀平重成】
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