第442回 「GF*BF」のグイ・ルンメイ

「GF*BF」の一場面 (C)2012 ATOM CINEMA CO., LTD. OCEAN DEEP FILMS CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION HUAYI BROTHERS INTERNATIONAL MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED (以下同じ)
グイ・ルンメイの端正な顔立ちに心を奪われてもう11年になる。彼女の出演作品で日本公開されていないものを加えると、2002年の「藍色夏恋」(イー・ツーイェン監督)以来、これまでに見た作品はちょうど12本に達している。学園青春ものからアクションまで芸域を広げて、いまや台湾を代表する女優になった彼女の最新作は、大阪アジアン映画祭で上映された「GF*BF」(原題「女朋友。男朋友」、ヤン・ヤーチェ監督)だ。
その彼女に会いたくて、昨年6月末の台北電影節(台北映画祭)に出かけ、チケット完売で「女朋友。男朋友」を見逃すという大失態を演じながらも、作品は見ていないのに大きなポスターを手渡され彼女のサインを頂くという幸運に恵まれたいきさつは、本コラムの第407回「だから好きです『台北映画祭』」で紹介した。

メイベル(グイ・ルンメイ=左)とライアム(ジョセフ・チャン)はいい仲だったが……
その待ち焦がれていた作品に、今回の大阪でようやく出会うことができたのだ。彼女の
人気や実力からすれば、どこかの映画祭で上映されると信じてはいても、それが実現されればやはりうれしい。しかも作品の内容が、男2人、女1人の仲良し高校生が40代に差し掛かるまでの30年近い三角関係を描いているということだったので、彼女の様々な表情を楽しむことができると大いに期待感を膨らませていたのである。その結果は……。
もう十分すぎるほど堪能させてもらったというのが第一印象。彼女の大人への道は、豪快にいたずらの限りを尽くすはすっ葉な高校生が、やがて甘く切ない恋に胸を痛め、妊娠したことを知って産むかどうかで悩むという、痛みを伴う長旅だ。その道中を常に寄り添う2人の男性の間で揺れる心を瑞々しく演じている。
第49回台湾金馬奨最優秀女優賞に輝いたのも納得という演技は、まだ30歳にも届かない若さながら、香港や大陸からもオファーが殺到し経験を積み上げてきた経歴ゆえのことであろう。

男友達をけしかけるように自らの髪にバリカンを当てるメイベル
グイ・ルンメイ、うまくなったなと強く思ったのは、彼女演じるメイベルが恋人同士のアーロン(リディアン・ヴォーン)との間に亀裂が入った時、それをかばおうとしたライアム(ジョセフ・チャン)の顔面に思いっきり張り手を食らわすシーンだ。本心を隠して仲を取り持とうとするライアムに本気で怒りをぶつける彼女の迫力に息を飲むほどであった。役柄とは言え、ジョセフ・チャン痛かっただろうなと思わず同情したのはもちろんである。
その痛さを表情に出さず演じ続けるジョセフ・チャンの演技も光っていた。ただ残念だったのは、「花蓮の夏」でブライアン・チャンと演じた時の役回りと同じ設定を与えられた事が良かったのかどうか。演じる上ではいろいろな可能性のある役者が一つのイメージに染まることはプラスもあればマイナスもあるだろう。個人的には「台湾の朝、僕は恋をする」(アーヴィン・チェン監督)で少々ドジな刑事を演じるジョセフ・チャンのユーモラスな味の方が気に入っている。シリアスもいいが本来はコミカル系も似合いそうな俳優だと思う。

サインに応じる手前からヤン・ヤーチェ監督、一人置いてグイ・ルンメイ (2012年6月29日、台北の中山堂で筆者撮影)
もう一人の男性を演じたリディアン・ヴォーンも、「九月に降る風」のグループリーダーとは打って変わった演技で新境地を開いた感があった。
それぞれの演技を引き出した監督の演出力は評価したいが、3人の関係が1985年の戒厳令下の台湾から始まり、やがて学生運動の熱気がキャンパスに満ちあふれていくという時代背景の描き方に今一つリアリティを感じることができなかった。

筆者がサインをしてもらった「女朋友。男朋友」のポスター(同)
これは邦画でも共通していて、同時代に実際の学生運動を目の当たりにして暮らした経験の有無がリアリティを引き出す決め手ではないかと思い始めている。もちろん予算の関係もあるだろう。その点では亡くなった若松孝二監督の作品には同時代を知る者にしか出せない力を感じることができた。
グイ・ルンメイに話を戻そう。時代に合わせ彼女の髪型は次々に変わるが、やはりショートが似合う女優だなと改めて感じた。高くきれいに伸びた鼻、笑うと花が咲いたように美しい口元から漏れる歯。その美しい輪郭をもっとも際立たせるのはショートのヘアに限ると思う。その点では今回の役柄での30年間、ほぼずっと魅力的であったと言えるだろう。たとえ行きがかりとはいえ、自身の髪にバリカンを当てても似合ってしまうのである。いい女優さんになったな、これからもずっと、と祈らずにはいられない。【紀平重成】
【関連リンク】
「大阪アジアン映画祭」の公式サイト
http://www.oaff.jp/2013/index.html