第445回 「ハナ 奇跡の46日間」
「ファン・ジニ」や「シークレット・ガーデン」などのドラマで活躍し今や売れっ子のハ・ジウォンと、「グエムル~漢江の怪物」「空気人形」などの映画に出演し日本でも人気の高いペ・ドゥナが競演する話題作。
「ハナ」は韓国語で「一つ」を指す。1991年に千葉県で開催された卓球の世界選手権に初めて南北統一チームで参加した実話を基にするスポーツ・エンターテインメントの人間ドラマだ。
昨今の国際政治を見ても分かる通り、実際の統一は難事業だが、22年前、日本で小さな“統一”が実現したことの意味は大きい。なにしろ圧倒的な強さを誇る中国を破っての女子団体戦優勝である。しかもその陰にはさまざまな葛藤があり、それを乗り越え南北選手が互いに手を携えてなし遂げた栄冠だ。まさに「ハナ 奇跡の46日間」と言えるだろう。
91年4月、千葉で開催された「第41回世界卓球選手権大会」に南北統一チームが参加した。女子選手の南のエースは韓国に卓球ブームを巻き起こしたヒョン・ジョンファ(ハ・ジウォン)。実力はありながら、中国の厚い壁にはねつけられ、雪辱を果たそうとの思いをたぎらせていた。一方の北の顔はリ・プニ(ペ・ドゥナ)。彼女も個人戦の上位に食い込む実力者で、互いに競争心を燃やしていた。
チームは一緒になったものの、価値観が違いすぎて、事あるごとにぶつかり合う。双方のエース同士の会話もエスカレートし、経済的優位をほのめかす南のヒョン・ジョンファに対し、北のリ・プニは「どんなに豊かな国よりも祖国で暮らしたい」と言い返すのである。
映画では触れていないが、統一チーム結成を発案し双方に働きかけたのは、国際卓球連盟の会長職にあった故・荻村伊智朗と言われる。スポーツは政治やイデオロギーに左右されるべきではなく、逆にスポーツを通じて積極的に国際平和に貢献していくことの可能性を信じての行動だったろう。
この作品の魅力は、まさに実在の物語をベースにし、まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアルな感覚を得られる点が大きい。そして魅力の二つ目は物語の展開を十分に信じることのできる迫真の演技力に支えられていることだ。南北のエースが互いに相手を認め体を気遣うまでに触れ合いを深めていく様子を、言葉以上に目の表情で表しているのが素晴らしい。女性同士の確執がやがて友情に変わっていく姿は心地よく感じられる。しかもどちらも人気と実力を備える美人。2人の演技合戦に目が釘付けとなることだろう。
魅力の三つ目は、統一が限定的で今は存在しないからこそ、もう一度夢を見たいという期待感をかき立てられるからではないか。その意味では、この小さな“統一”がどうして成立し、なぜ瓦解したのかを改めて吟味してみる価値はありそうだ。南北対立が厳しさを増す今だからこそ、娯楽映画ではあるが、考えるきっかけにはなるかもしれない。
注文もある。映画で描かれる北のイメージが韓国側から見ると「イデオロギー的には固いが実は人情味も併せ持っている」というやや画一的なものになっていないか。後半南北の関係が壊れ、北の選手が本国から送り込まれた諜報員風の男たちの監視下に置かれた時、各部屋の前で警戒していた男たちが一転ライバルとなった韓国単独チームの試合に一喜一憂する姿は微笑ましくもあるが、やや類型化しているように思う。「いろいろあっても心は同胞。むしろそうあってほしい」という願望なのかもしれないが……。
「ハナ 奇跡の46日間」は20日よりオーディトリウム渋谷、Garden Theater in 虎ノ門四丁目(27日~)ほか全国順次公開【紀平重成】
【関連リンク】
「ハナ 奇跡の46日間」の公式サイト
http://www.hana46.jp