第448回 「花開くコリア・アニメーション」
韓国の最新アニメーションを紹介する「花開くコリア・アニメーション2013」。先日終わったばかりの東京会場には暴力描写が続く長編ミステリー「豚の王」(ヨン・サンホ監督)目当てに多くの観客が詰めかけた。
「息もできない」のヤン・イクチュン監督とヒロインのキム・コッビがそろって声優として参加したことが話題となり、また昨年のカンヌ国際映画祭監督週間部門に招待されるなど評価は高い。
この作品にはいくつかの魅力がある。一つは最近のアジア映画に共通する、現在の時点から映画が始まり過去と今を往還する学園青春ものという“ヒット作の法則”に見事に当てはまっていることだ。この系列に連なる作品と言えば台湾の「あの頃、君を追いかけた」や「GF*BF」(原題「女朋友。男朋友」)、インドの「きっと、うまくいく」などすぐに思い浮かぶ。
「豚の王」も、会社の経営破綻後、衝動的に妻を殺した主人公ギョンミンが、15年ぶりに中学時代の同級生ジョンソク(声はヤン・イクチュン)を訪ねるところから始まる。作家になるという夢を果たせず、自伝のゴーストライターとしてなんとか食いつないでいるジョンソクはギョンミンの突然の訪問に戸惑う。やがて当時の記憶を語り合ううちに、衝撃の事実が明らかにされるという内容だ。
魅力の二つ目は、現実の社会をリアルに描いている点だ。二人のクラスは金持ちの子が仕切っていて、反抗する生徒は暴力で抑えられるか、告げ口されて教師からにらまれる。そのリーダーは学園を牛耳る権力者の各クラスにおける代理人としてお目付け役を演じているのだ。
学園における支配というテーマでは韓国の実写映画でパク・ジョンウォン監督の「われらの歪んだ英雄 」を思い出す。軍事政権下で身をすくめる人々の複雑な心理を学園に置き換えたとも言える描写は見事だったが、「豚の王」は経済格差による新たな階層社会の出現を背景に描いている。
「金は金持ちの所にだけ集まる。俺たちがいくらあがいても手には入らない」という悲痛な声は、持てる層が既得権益を守るため作り上げた揺るぎない体制を前に持たない層の絶望的な声といえるだろう。
タイトルの「豚」とはこの持たない層を指す。同じく「王」とは二人が交互に話題にする級友で、暴力には暴力で抵抗して結局つぶされたチョルと呼ぶ二人にとっての心の英雄だ。
そして魅力の三つ目は、暴力描写の連続に神経を逆なでされながらも、なお見続けたいと思わせる展開の妙である。安食堂で思い出を語り合った後、帰り支度を始めるジョンソクに向かい、ギョンミンは「近いから」と母校に立ち寄ることを提案する。心進まぬ思いを抱きながらもジョンソクは申し出に従う。そうせざるを得ない意志をギョンミンの言葉に感じたからだろう。校庭に久しぶりに立った二人の前で明かされる真実、そして“われらの英雄”が土壇場で心変わりしたあることとは……。ミステリーが最高潮に盛り上がるラストが待っている。
人間の心の闇に切り込むヨン・サンホ監督の演出はすご味すら感じさせるが、正直のところ疲労感を覚えたのは事実だ。どうせ映画を見るのだから最後に少しは救いをという期待は見事に裏切られる。
残酷で飛び切りリアルなミステリー。新しいアニメーションの誕生と言えるだろう。
「豚の王」のほか短編28作品を集めた「花開くコリア・アニメーション2013」
は大阪会場が5月11日~16日、PLANET+1。名古屋会場が同18、19日、愛知芸術文化センター 12階 アートスペースEFで【紀平重成】
【関連リンク】
「花開くコリア・アニメーション2013」の公式サイト
http://anikr.com/2013/top.html