第454回 「フェニックス~約束の歌~」

「フェニックス~約束の歌~」の一場面(C)KJ-net (以下同じ)
ホスピスとロックバンド。およそ縁のなさそうな両者を結びつけ、巧みに作品に取り込んだのがこの「フェニックス~約束の歌~」(ナム・テクス監督)である。しかも主演は日本武道館のライブチケットを2分で完売し日本でも人気の高いK‐POPグループ「FTISLAND」のボーカル、イ・ホンギ。自身と同じトップスターで、わがままのし放題ながらトラウマを抱えるナイーブな若者という役どころも話題を集めている。

死を間近にした女性を前にして歌うチュンイ(イ・ホンギ)
トップアイドルとして気ままに過ごすチュンイ(イ・ホンギ)は、ある日、クラブでケンカの相手を殴り、社会奉仕活動を命じられる。彼が訪ねたホスピスは末期がんの患者たちが残された時間を前向きに過ごそうとしていた。
中でもチュンイとやがてバンドを組むことになる4人は変人ばかり。真面目に社会奉仕活動などする気のないチュンイの監視役を宣言するアンナ(ペク・ジニ)、煙草をねだってばかりいるムソン(マ・ドンソク)、夜になると病院を抜け出し酒場に日参するボンシク(イム・ウォニ)、タブーなしになんでも激写する小さな女の子ハウン(チョン・ミンソ)。病人らしからぬ彼らの行状にチュンイは驚く。

4人の演奏に引き寄せられて部屋の中の様子をうかがうチュンイ(右)
ホスピスのことを知らなかったチュンイは「死を目前にした人に幸せな気持ちをかなえてあげる場所」「死を待つのではなく、別れを準備する」という説明に、奉仕活動を続けていく自信が揺らぎ始める。
そんな時、資金難からホスピスは閉鎖の危機に。資金稼ぎのため、素人バンドの4人組はチュンイを巻き込んで、賞金のかかったオーディションを目指すことになる。最初は乗り気でなかったチュンイは、彼らの本当の思いを知り、心を寄せていく。

大きな野外コンサートを実現させて4人は盛り上がる
ホスピスなので、死の病が描かれるのは当然としても、音楽をキーワードに心を一つにしていくという作品は、「ハーモニー 心をつなぐ歌」など、これまでもなかったわけではない。しかもアイドル映画である。そして後半には泣かせどころがしっかり待ち構えている。こう書くと目新しさに欠ける作品と誤解されそうだが、この作品ならではの魅力はたっぷり味わえるはずだ。
たとえばイ・ホンギが自身とイメージの重なるトップスターを自ら演じているのは、その最たるものだろう。事件は起こしたものの、クラブでファンと交流するシーンは興味深いし、監視役のアンナとファンの目を気にしながらデートの様に街中を歩くシーンはスリリング。またマネジャーが社会奉仕活動を美談に仕立てて会見を行うというエピソードは、妙にリアルで説得力がある。

お忍びで街を歩くチュンイ(右)とアンナ(ペク・ジニ)
イ・ホンギ自身が映画の中で披露するロックやバラードの歌の数々も、心揺さぶる透明な声にしびれるはずだ。「始めよう 自分の殻を破ろう」で始まる「JUMP」という曲や、日本語によるエンディングソング「オレンジ色の空」などは音楽が登場人物の心をよく表していて気分を盛り上げることができるだろう。印象に残るいい作品には、必ずいい音楽が使われていることを改めて思い出す。
主演のイ・ホンギを盛りたてるように、豪華脇役陣も存在感を発揮している。「生き残るための3つの取引」のマ・ドンソク、「クライング・フィスト」「食客」のイム・ウォニ、「アコースティック」のペク・ジニらは演技だけでなく、ドラムやギター等の演奏をマスターして画面に力強さを与えている。
単なるアイドル映画でないことは、もう十分にお分かりいただけたと思う。
個人的には「ソウルのバングラディッシュ人」にも出演していたペク・ジニがいい味を出し、今後に期待感を抱かせてくれたことがうれしい。2AMのイム・スロンらと共演した「アコースティック」と見比べることをお勧め。
「フェニックス~約束の歌~」は6月7日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開【紀平重成】
【関連リンク】
「フェニックス~約束の歌~」の公式サイト
http://phoenix-band.jp/