第460回 「ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー?」

アー・ファン(メイヴィス・ファン=右)は二人目の子を欲しがるが、ゲイのウェイ・ツォン(リッチー・レン)は子作りに乗り気ではない 台湾の公式サイト(http://www.1production.com.tw/luvmetmr/tw/)から転載=以下同じ
台湾映画にまた新しい恋愛物の傑作が誕生した。「台北の朝、僕は恋をする」のアーヴィン・チェン監督の新作は、伝統的な恋愛観にとらわれることなく、現代の男女の愛に対する考え方や結婚の姿を描いている。それを声高に語ることなく、ユーモアあふれる物語に紡ぎあげた監督のセンスと手腕が光る。
同作品の原題は「明天記得愛上我」で、第22回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映された。私が見たオープニングの回は満席で、上映中は終始笑いが絶えず、観客が作品を共に楽しんでいるという幸福な一体感を感じることができた。

ウェイ・ツォンの前に香港のゲイの青年トーマス(ウォン・カーロッ)が現れ……
この映画では中年にさしかかったウェイ・ツォン(リッチー・レン)が妻のアー・フォン(メイヴィス・ファン)と可愛い息子を得て、仕事でも店長に昇格するという幸運に恵まれながら、何となく元気のない生活を送っている。ある日彼の眼鏡店に香港のゲイの青年トーマス(ウォン・カーロッ)がやってきて、メガネの調整をするうちに、いやほとんど一目見た瞬間に、二人は引かれ合う。ウェイ・ツォンは結婚と同時に封印したゲイの心を再び解き放つのである。

婚約中のマンディ(シア・ユーチャオ=左)はサンサン(五月天のシートウ)とスーパーで買い物中、マリッジブルーに襲われる
物語は群像劇なので同時進行でもう一つの恋愛劇、ウェイ・ツォンの妹マンディ(シア・ユーチャオ)とサンサン(五月天のシートウ)のお話も展開される。
サンサンは婚約者のマンディと一緒に生活用品を買いに大型スーパーに行き、突然マリッジブルーに襲われた彼女に、無言のまま立ち去られスーパーに取り残されてしまう。本来なら怒って当然だが、クー・ユールン演じるゲイの仲間たちの応援を得て、一生懸命に彼女の気持ちを取り戻そうとする。その落ち込んだサンサンだけでなく、仲間たちの少々のんびりした心優しい応援ぶりが実にいい。

思い悩むマンディに話しかけるのは……
一方、ひどいことをしたという自覚はあるものの、マンディは反省よりも韓流ドラマの主人公(イ・ヘウ)に夢中だ。心配する兄のウェイ・ツォンからの電話にも出ず、食事もカップ麺で済ませ、ひたすらテレビの中のイケメンと会話するうちに、そのイケメンの彼が……。
物語はリアルでシリアスな部分とメルヘンチックでユーモアあふれる部分が交互に展開し、その緩急の見せ方が絶妙だ。この路線は前作も同じだが、客席の反応は一段と盛り上がっていた。監督のセンスと技術がさらに磨かれたと言えるだろう。
その“進化”は作品のまとめ方にも見ることができる。兄と妹の2組のカップルの行方も気がかりだが、実はこの映画の主人公は夫の素顔に気づいて最初は泣きじゃくりながら、物語の後半になるにつれてしっかりしてきて精神的成長を見せる妻のアー・フォンではないかと思えるのだ。夫との関係や勤務先の会社の合併・リストラ問題、さらに親との関係等が一気に襲いかかり、個人の力では抱えきれないにもかかわらず、一つ一つ受け止めて行こうとする。そして会社にまで相談に来た義理の妹マンディへの応対なども親身であり、困難を抱えて行くだけの資質を持っていることをうかがわせるのだ。

傷心のサンサンを励ますゲイの仲間たち(左はクー・ユールン)
ネタバレになるのでこれ以上の紹介は控えるが、2組のカップルにはとりあえずの落とし所が用意されている。その表情から見えるのは一人ひとり心からの満足感である。しかし、それは必ずしも予定調和には終わっていない。アーヴィン・チェン監督が選んだラストは、人生のほろ苦さを噛みしめてのひとまずの安堵と納得ということかもしれない。
五月天のシートウには歌の出番はなかったが、もう1人の歌手、メイヴィス・ファンには作中の今の心境をそのまま歌う素晴らしいシーンが用意されている。そのメイヴィスは「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」(龍門飛甲)で見せた妖艶な美しさとは打って変わり、落ち着いた女っぷりで作品に味わいを持たせているのが印象的だった。
そのほかにも魅力的な俳優陣がそろっており、日本公開の実現を信じたい。ちなみに李烈(リー・リエ)プロデューサーは「Orzボーイズ」や「モンガに散る」を手掛けたヒットメーカーだ。【紀平重成】
【関連リンク】
「ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー?」の公式サイト
http://tokyo-lgff.org/2013/