第476回 ことしは渋谷で開催 中国インディペンデント映画祭

「小荷」の一場面
ほとんど一人で手掛けながら、主宰者である中山大樹さんの作品を選ぶ確かな目と熱意にほだされ日中双方の多くの映画人が協力する恒例の「中国インディペンデント映画祭」が会場を東中野から渋谷に移して2年ぶりに開催される。

「白鶴に乗って」の一場面
今回もゲイのクラブ歌手や性的な夢を見る人妻、死体密売人といった生々しい中国の今を伝える人たちが登場。検閲に通らなければ国内上映はご法度と分かっていても、撮らないではいられなかったドキュメンタリーとフィクションの9本に特集上映(3本)と特別上映(2本)を加えた見応えのある計14本がそろった。
中国で若い女性教師が理想と現実のはざ間で苦悩する姿を描いた「小荷」は女性のリウ・シュー監督の作品。
地方で高校の国語教師を務める小荷(シャオホー)はユニークな授業が生徒には評判だったが、同僚や父母からは警戒されていた。例えばある日の授業は大江健三郎の小説を題材に「なぜ学校へ行くのか」を考えさせる。校長から意に添わない異動を命じられると即決で辞表を出し、生徒に別れを告げる最後の授業では、体の治療より人々の意識改革の方が大事と考え、医師志望から作家に転じた魯迅の思想を説く。党が押しつける教育より、個人が自立して考える方が大事と監督は言いたげである。

「ホメられないかも」の一場面
明確なメッセージではないが監督の思いは随所に込められているように見える。北京に働き口を見つけに行ったシャオホーはようやく新聞記者の仕事を得るが、何度も書き直しを命じられたり、報道禁止項目を例示した党宣伝部の通達を告げる会議に興味がなく立ち上がった途端に見とがめられ、クビになったりと、一つの価値観に支配されている社会の息苦しさを冷徹な視線で描写している。
理想を持てば持つほど生きづらい社会にあって、シャオホーはどんな選択をするのか。自分らしく生きようとすれば苦しさも倍加するが、社会に合わせ自分を曲げれば成功もありうる。それを成功とするか失敗と見るかはあなた次第。ラストのシーンからはそんなメッセージを感じ取ることができる。
棺桶や墓など人間の死にまつわる材料を取り上げながらユーモアあふれるタッチで描く「白鶴に乗って」は蘇童(スー・トン)の小説を、若手の注目株であるリー・ルイジンが自分の故郷甘粛省に舞台を移した作品。

「重慶」の一場面
農村で暮らす大工の馬さんは、棺桶作りの名人だ。政府が土葬を禁じたため、棺桶の注文も減ってきたが、土葬を望む老人たちは依然として多い。親友のツァイはこっそり土葬されたが、役人にバレて掘り返される。大騒ぎの一幕を目の当たりにした馬さんはある計画を立てるのだが。
ここでも党の意向を厳守しようと硬直的な介入を図ろうとする役人が出てくる。だが、そんな型苦しい空気を吹き飛ばすようにのどかな空気も漂う。それは馬じいさんと娘や嫁、あるいは孫たちとのさりげないやり取りが醸し出すものだ。人間本来の営みには政治もスローガンも、あるいは意図を持って作られた緊張も無関係と考える監督の思いが伝わってくるようだ。
甘粛の美しい風景も魅力的。とりわけ馬じいさんが必死に止めようとする村人による水辺の草刈り作業は、イタリア映画「にがい米」を彷彿とさせる美しく力強い描写が印象的だ。ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門参加作品。
昨年の東京国際映画祭で日中の政治的対立から参加取りやめ作品が相次いだ中で、来日して注目されたヤン・ジン監督の「ホメられないかも」も上映されるので、見逃した方にはお勧めだ。

「春夢」の一場面
田舎から町の親せき宅に移って小学校に通っていたヤン・ジンは卒業の夏休みに長距離バスに乗って同級生のシャオポーの実家に遊びに行く。優等生のヤン・ジンと、怒られてばかりのシャオポーは人々との出会いから、少しずつ成長していく。
この作品も一人っ子政策どこ吹く風と兄弟姉妹のいる田舎の家族の実態や、物々交換が当たり前のように機能している牧歌的な生活と、野菜より果物、果物より炭鉱とより稼ぎの多い仕事を求めて高額なジープを自慢するお金優先社会がせめぎ合う地方における中国の今をリアルにとらえている。
圧巻は家族の事情で小さいころから別れて暮らすシャオポーの姉が、黄河のほとりで健気に生きている姿。一度は捨てられかけたが、黄河で悲しみを癒やし、いつか弟を大学に出すと語る姉は、もう一つの「黄色い大地」とでもいうような不思議な力強さに満ちている。
そのヤン・ジン監督の提案で今回初めて加わった特集上映はチャン・リュル監督の「豆満江」「重慶」「唐詩」の3本と特別上映「ファック・シネマ」(ウー・ウェングアン監督)、「占い師」(シュー・トン監督)の2本。
「中国インディペンデント映画祭2013」は11月30日よりオーディトリウム渋谷で開催【紀平重成】
【関連リンク】
「中国インディペンデント映画祭2013」の公式サイト
http://cifft.net