第504回 「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」

皇帝の高宗から名剣を授かるディー・レンチェ(マーク・チャオ)
ツイ・ハーク監督といえば、華麗にしてスピーディーなワイヤー・アクションが売り。その監督が本作の前日譚となる「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」の大ヒットに力を得て、2億元(約32億円)の巨費を投じて作ったのが怪奇アクションアドベンチャーの本作である。
リアルさにこだわる監督は、コンピューターグラフィックス(CG)ではなく実物の船を次々と作り、40を超えるセットで撮影を敢行。またラスト近くの崖を舞台にしたワイヤー・アクションも、垂れ下がるロープを次々に飛び移ったり、綱を切られて滑り落ちるさまを本当らしく見せるために工夫を凝らした繊細な演出で乗り切った。そのこだわりは興行収入6億元(96億円)の大ヒットに結実した。

イン(アンジェラベイビー=右)と護衛するディー
時代は前作から24年さかのぼる西暦665年、中国・唐朝の最初の全盛期が過ぎた第3代皇帝・高宗(こうそう)の治世。後に皇帝にもなる皇后の則天武后(カリーナ・ラウ)は早くも実権を握り、ちまたで流布していた“海の神・龍王”怪事件の解明を最高裁判所にあたる大理寺の司法長官・ユーチ(ウィリアム・フォン)に命じる。

海の中も泳ぐ馬で龍王の攻撃をかわそうとする
その事件とは、唐の敵国・扶余(ふよ)に送り出した水軍10万人の艦隊が謎の物体に襲われ壊滅状態になったこと。「これは“海の神・龍王”の仕業。若い女性を供物にして怒りを鎮めなければいけない」という噂がちまたに流れ、花魁(おいらん)の中でもとりわけ美しいイン(アンジェラベイビー)が龍王の祀られている廟に3年間幽閉されることになった。司法長官に与えられた猶予はわずか10日間だった。
その大理寺に若き判事ディー・レンチェ(マーク・チャオ)が赴任する。読唇術を使えるディーはインを誘拐しようとする正体不明のグループを察知し彼女を救出。そこに現れた“怪物”の素姓を探るうちに、王朝を揺るがす大陰謀が進められていることに気付く。

強くてきれいで……恐い則天武后(カリーナ・ラウ)
もうこれだけで怪奇、アクションと盛り沢山なうえ、今作は超大作ならではのアドベンチャーの要素もタップリ。次々に展開される活劇や怪物たちの動きを追うだけでも見ごたえがある。
しかし、今作はこれからのアジア映画を盛り立てていく若手俳優の競演という色合いが前作に比べると強い。前作はディーを演じたアンディ・ラウをはじめレオン・カーフェイ、リー・ビンビン、そして同じ則天武后を演じたカリーナ・ラウと続く重厚な配役である。それに対し今作では、マーク・チャオ、キム・ボム、ケニー・リン、アンジェラベイビーといった80年代生まれの若手が目立つ。
中でもマーク・チャオとアンジェラベイビーは「ハーバー・クライシス<湾岸危機>Black & White Episode 1」「メモリー-FirstTime-」に続く、3本目の共演作である。目のクリッと大きなアンジェラベイビーのセクシーな演技は存在感があるし、マーク・チャオも聡明でクールな判事という役どころをうまくこなしている。

宮廷侍医のワン(右)を演じるチェン・クンのユーモラスな表情
マーク・チャオは台湾映画の「モンガに散る」を除けば、「ハーバー・クライシス<湾岸危機>Black & White Episode 1」「メモリー-FirstTime-」「愛/LOVE」「So Young」などの出演作はいずれも合作か俳優が国際的だったり、台湾以外の国の監督作品だ。それは彼自身の選択なのか、それとも彼の持つ国際性を考えてのキャスティングなのか。ちなみにマーク・チャオはカナダのビクトリア大学を卒業している。
そういえば香港映画のイメージが強いツイ・ハークはベトナム出身で香港に移住、アメリカのテキサス州立大学で映画の勉強をしている。映画は漫画と同じ、いやそれ以上に国境を超える浸透性は高いようだ。
若手中心のキャスティングと紹介したが、則天武后役のカリ-ナ・ラウの存在感は圧倒的。その美しさ、演技力は、今年の大阪アジアン映画祭で最優秀女優賞に輝いた「越境 Bends(過界)」を彷彿とさせる。今の彼女は、そこに立っているだけで魅せてくれる。
「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」は8月2日よりシネマート新宿、シネマート六本木ほか全国順次公開。【紀平重成】
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「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」の公式サイト
http://www.u-picc.com/SEADRAGON/