第509回 「チング 永遠の絆」
日本における韓国映画ファンの裾野を劇的に広げた名作「友へ チング」の実に12年ぶりの続編である。
釜山の海辺の街で幼友達だった4人組のうちヤクザの組長と葬儀屋の息子同士が抗争中の二つの組織に身を投じ、やがて運命のいたずらで永遠の友を失うというのが前作のあらすじだ。ヤクザの世界を描きながら、かけがえのない友情をノスタルジーあふれるタッチで描いた前作は、韓国で800万人の観客動員を果たし、2001年当時の興行収入記録を塗り替えた。
再びメガホンを取ったクァク・キョンテク監督が今作で「どうしても語りたかった」ものを推測すれば、まずはチャン・ドンゴンが演じた葬儀屋の息子ドンスがなぜあそこまで執拗に刃物で刺され続けなければならなかったのかという死に至る真相、そしてもう一つはユ・オソン扮するジュンソクらによる三世代に渡って連綿と受け継がれていく絆と宿命であろう。裏社会の男たちの生き様を描いてはいるが、企業や小さな地域社会等、我々の身の回りにも実はそこに共振する要素をはらむものがあるのかもしれない。
残念ながら今作にチャン・ドンゴンは出ていないが、当時30代半ばで高校生役を演じたユ・オソンが今回は実年齢に近い40代のジュンソクを円熟味あふれるたたずまいで好演している。歳を重ね味の出てくる俳優はしばしば見られるが、ユ・オソンは間違いなくその一人であろう。
17年前に親友ドンスを失ったジュンソクはドンス殺害の罪で服役している刑務所でソンフン(キム・ウビン)という若者と知り合う。27歳のソンフンに若いころの自分を見る思いのジュンソクは何かと彼に目を掛けるようになる。
出所したジュンソクが釜山に戻ると、会長は体調を崩し、やり手のウンギ(チョン・ホビン)が副会長として組織を牛耳っていた。病身の会長から、ジュンソクの父親でもある先代の会長(チュ・ジンモ)の話を聞いたジュンソクはウンギとの対決を決意。ソンフンに「一緒に釜山を手に入れよう」と誘う。やがてジュンソクとソンフンの間には父子のような感情が芽生えていくが、ソンフンは対立する陣営から思いがけない自分の出生の秘密を聞かされる。
正直のところを言えば、組織同士の抗争にチェーンソーまで登場すると、見ていて体が強張ってしまう。01年の「友へ チング」以降、様々なハードアクション映画が作られてきたが、暴力シーンは過激になる一方で、最近はあらかじめ用心して作品を選別するようにしている。幸い今作は内面描写にも力が入っていて、そちらを存分に堪能した次第である。
ドンスの死をめぐる真相やジュンソクとソンフンの父子のような絆と宿命といったものが程よく描かれていて、後半の関心は、ドンスという盟友だけでなく新たに培ったソンフンという絆まで失うのかどうかに移っていく。ジュンソクに課せられた因縁はかくも深いということだろうか。韓国映画ならではの情感がスクリーンにみなぎり、ぐいぐいとラストへと引っ張っていく。
10年ほど前に初めて釜山を訪れた際に、いち早く駆け付けたのは「友へ チング」のロケ地だった。古い映画館や跨線橋にはロケが行われたことを示す標識も立っていて、訪問者が多いことをうかがわせた。何気ない街角が実に印象深く描かれていて、監督をはじめとしたスタッフのセンスの良さを実感した。
今作でも港の突堤のテトラポットや住宅街の緩いカーブのある坂道などは、またいつか訪れたい場所である。
「チング 永遠の絆」は9月6日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開【紀平重成】
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「チング 永遠の絆」の公式サイト
http://ching-kizuna.com/