第555回「若さは向こう見ず」
あっ、もうお気づきになりましたか、本コラムの回数に。
同じぞろ目でも、今回は「5」が三つも並ぶ威勢のいい555回目。「ゴー、ゴー、ゴー」のノリにピッタリのお話と言えば、やはりインド映画ではないでしょうか。若者たちが自分探しに悩みながらも青春を謳歌する姿を描いた本作は、とくにお勧めしたい。主演は「バルフィ! 人生に唄えば」のランビール・カプールと「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」でフィーバーしたディーピカー・パードゥコーンという申し分のない顔ぶれ。映画超大国のインド映画として初めて全米オープニング9位にランクインし、若者を熱狂させた青春群像劇です。
現在から過去を振り返る構成の作品が、このところアジア映画では続々と作られヒットしているというお話は、本コラムでも何度か紹介している。たとえば同じランビール・カプール主演の「バルフィ! 人生に唄えば」は主演男優が同じで、舞台もインド北部の避暑地、そして現在と過去を行き来するという構成まで一緒。作品の主な要素がここまで同じだと、「ヒットの要因はこの3つ」とまでは言わないものの、アヤーン・ムケルジー監督は、もしかして「バルフィ!」を意識したのではないかと疑ってしまう。
とはいえ、この2作品。ランビール・カプールの緩急自在の演技にいちいち感心し、みるみる作品世界に引き込まれていくところは似ているものの、描かれるテーマはかなり違う。
医学を志す内気な女学生ナイナ(ディービカー・バードゥコーン)は、再会した高校の友人アーディティ(カルキ・コーチリン)に誘われ、避暑地マナリーへの旅に出かける。そこに同級生だったバニー(ランビール・カプール)、アビ(アーティティヤ・ローイ・カプール)の男2人が合流し、男女4人によるヒマラヤのトレッキング旅行となる。
誰とでも親しく話せ、おふざけが好きなバニーに、最初は「違和感オーラ」をまき散らし自分の殻に閉じこもってばかりいたナイナだったが、次第に彼の魅力の虜になっていくが……。
「バルフィ!」は、耳と言葉に障害がありながらも、明るく生きる主人公が2人の不幸な女性の人生を変えていく感動の物語だったのに対し、本作では、前半は何事も一番でないと気が済まない堅物の女性が愛に目覚め、後半はお調子者だった男が人生を見つめ直していくという構成。とくに本作は過激でノリのいいダンスが物語の進行に合わせ次々に炸裂するというインド映画のお約束ごとを守りながら、特に後半では4人の仲間が人生を語り仲直りしていく姿を説得力ある会話で見せていく。若さの爆発でグイグイ引っ張っていく前半と男女4人の仲間が心の内を明かしていく後半との対比が鮮やかだ。
ついでに言えば、前半はナイナが心の殻を破り蝶のように変身していく瞬間の美しさを見せる、つまりディーピカーにスポットライトが当たる映画。そして後半はバニーが仕事一途の生き方を変えていくのを感動的に見せる、ということは前半とは逆にランビールにフォーカスした作品と言えるかもしれない。
前半は旅行先でも仲間との会話に加わらず医学書を広げる“イケてない子”を演じるディーピカーの眼鏡姿が実に可愛く、見所の一つとして挙げておきたい。もう一つはランビール・カプールのダンスの切れ味だ。ただうまいというだけでなく、入魂のというか、彼自身存分に楽しみながら踊っているのが観客に伝わってきて、一方、彼には見えないはずの観客の大受け反応をイメージしながら、また彼が踊りに興じるという、そんな双方向で刺激し合う構図ではないかと思わせる熱演ぶりなのである。
美男美女が結婚観や友情観を熱く語り、ノリのいいダンスと心に染みいる音楽、そしてインド国内だけでなくパリまで行ってロケし娯楽映画に徹しようという思いが込められている。
個人的にはラストでナイナと抱き合うバニーの目の意味を考えている。幸福感に浸っているのか、後悔か、それとも……。
同時公開の「愛するがゆえに」で主人公を演じるアーティティヤ・ローイ・カプールがここでも熱演している。
「若さは向こう見ず」は、前回ご紹介の「愛するがゆえに」と共に8月15日より渋谷シネクイント、9月12日よりキネカ大森で同時公開【紀平重成】
【関連リンク】
「若さは向こう見ず」の公式サイト
http://goo.gl/fAonJ0