第605回 「pk」
いま、自分はインド映画に一番ハマっているかもしれない。もちろん、インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)というインド映画13本を一挙に堪能できる映画祭が開催されたばかりだし、また一般公開作品にも恵まれたということもあるだろう。しかし、どの作品も観客を楽しませようという思いが詰まっている上に、テーマもサスペンスから謎解き、ラブストーリーまで実に多彩。なおかつ、たとえば女性の社会進出支援といったメッセージ性にも富んでいて、全く飽きるということがないのだ。
その好例と断言してもいいのが、本作である。まず作品の骨格がSFコメディであり、しかも涙を流さないではいられない極上のラブストーリー。ヒューマンドラマの要素もある。さらにヒンドゥー教を冒とくしていると実際に上映禁止運動が起きるなど、宗教問題にも鋭くメスを入れている。このテンコ盛りの物語にさまざまな伏線が張り巡らされ、後半、その謎が次々に回収されて行くという快感。153分という映画の長さも全く感じさせない展開なのだ。
日本でも大ヒットした「きっと、うまくいく」のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーンが再びタッグを組んだ。その話題作のストーリーは。
テレビ局で働くジャグー(アヌシュカ・シャルマ)は、留学先のベルギーで失恋した痛手を、仕事に没頭することで癒やしていた。ある日、地下鉄で黄色いヘルメットを被った男が、大きなラジカセを持ち、さまざまな宗教の飾りを身に付けてチラシを配っているのを見かける。「PK」という名のその男(アーミル・カーン)が、神様を探しているということを知り、そのわけを聞こうと取材を始めるが……。
奇想天外な脚本も手掛けた監督の才能も素晴らしいが、作品の魅力を考える上で見逃せないのは、もちろんアーミル・カーンの役者としての才能だ。50歳を越えて、なお鍛え上げた見事な体。ワケありの「変人」ぶりを、スクリーンではまばたきを禁じて表現した「神技(カミワザ)級」の演技力。アーミルだから納得できる筋書きと役柄だと信じ込ませる力がある。
ヒロインのジャグーを演じたアヌシュカ・シャルマも熱演している。シャー・ルク・カーンと共演した「命ある限り」等で注目された彼女は、今作ではキュートな女学生から、はつらつと働くキャリアウーマンまでセクシーに魅せている。個人的にはハリウッド映画の「キャバレー」で男の心を虜にする小悪魔的役柄を演じたライザ・ミネリに顔立ちが似ているかなとも思う。しかしアヌシュカの演じたジャグーは同じセクシーでも、明るくチャーミングで清潔感漂うところが根本的にライザ・ミネリ演じたダンサーとは違うかもしれない。
逆に共通点を捜すと、2人ともショートヘアが似合うところだ。男の心を惑わせるのも、一方でバリバリと仕事をこなす爽快なイメージを持たせるのも、すっきりしたショートということになるのだろうか。気のせいかインド映画でもショートヘアの似合う女性が増えたように思う。
さて、本コラムの第603回でも触れたように、インド映画にはラストが見逃せない作品が多い。「きっと、うまくいく」「女神は二度微笑む」「チェイス!」「チャーリー ~Charlie~」のいずれもが、クライマックスで予想もしない展開にぼう然とし、あるいは、歓喜の涙を流し、カタルシスを味わうことになるだろう。そして気付いてみれば、文化や宗教の違いも越えて、あるいは国境どころか地球をすら飛び越えて仲良くなれるという大きなメッセージがじわじわと効いてくるに違いない。
「pk」は10月29日より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開【紀平重成】
【関連リンク】
「pk」の公式サイト
http://pk-movie.jp/