第709回 「台北セブンラブ」

「台北を舞台にした恋愛映画は?」と聞かれれば、アジア映画ファンならだれでもすぐにお気に入りの作品を挙げることができるだろう。筆者なら古くは「恋恋風塵」や「クーリンチェ少年殺人事件」「藍色夏恋」。この10年ほどに限っても「台北の朝、僕は恋をする」や「GF*BF」「台北暮色」が思い浮かぶ。いずれも名作や何度も見直して忘れがたい作品だ。その中に割って入ろうとしているのが何もかも初物づくしの感がある本作である。
この作品の特異性についてまずご紹介したいのは公開に至るまでの長い道のりだ。2014年に制作されながら、なぜか日本の配給会社に上映権を買われることなく5年もたってしまった。しかもそんな「店ざらし状態」の作品が1人の女性の熱意により台湾映画を配給する個人会社の立ち上げに結実し、さらにクラウドファンディングで公開資金を募った結果目標額も達成し公開にこぎつけることができたのである。

この熱意を引き出した作品のそもそもの魅力についても触れなければならない。公開の仕掛け人である台湾映画社の葉山友美さんご本人に熱弁を奮っていただこう。
葉山さんは台湾人の両親を持ち、日本で生まれ育ったいわゆる在日二世。両親の生まれ故郷台湾に留学し、そこで出会ったのが本作品。
「当時(15年)現地で何本も台湾映画を見ましたが、この作品はずば抜けてアカ抜けていて斬新で、中国語がまだまだの私でも楽しめる、今までの台湾映画のイメージを覆す唯一の作品でした。日本語字幕付きでちゃんと見たいと思いました」
台北映画祭に入選し、金馬賞最優秀新人賞&最優秀視覚効果賞にもノミネートされた本作の原題は「相愛的七種設計」。直訳すると「七種類の愛の形(デザイン)」となるが、「設計」という中国語には「ワナを仕掛ける」という意味もあり、原題には愛を仕掛けるという意味合いも含まれているという。
「タイトルからも分かるように、台北に住む7人の若者の恋愛模様を描いた映画です。デザイン事務所を舞台にホテル改装プロジェクトを通して、恋愛劇が巻き起こります。主要人物7人の個性が際立っているだけでなく、劇中の会話も軽快で洒落の効いた言葉が味わえる、台湾で初めてラブロマンスとデザインという文化産業が融合した、新しい恋愛ドラマと言えると思います」

本作はデザイン事務所に勤めセンスにこだわるデザイナーたちが、「愛すらもデザインできるのか」と自問しながら飛びかわすオシャレな会話の応酬を楽しめる内容になっているのである。
監督はCMやMV(ミュージックビデオ)でも活躍するチェン・ホンイーで本作は長編3作目。
「2016年世界デザイン首都」に選ばれた台北では市内のデザイン事務所がしのぎを削っていた。その一つでマネージャーを務めるバーズは元の恋人ドロシーを上海から呼び戻し、彼女を難航しているホテル改装プロジェクトの主任に任命する。事務所の代表アンドリューは、クライアントのマークがドロシーに目を付けていることをいいことに取引を優位に運ぼうと画策する。そんな動きに気が気でないバーズはドロシーにまとわりつくが、バーズに気があるエマは穏やかではない。エマはいい仲のアーチャンとチーズの2人にドロシーの見張りをさせるが……。フランスにいる元カレを忘れることができないドロシーだったが2人の男から愛を告げられ下した結論は。

こんな複雑な愛の模様が整理されているように思うのは、登場人物がカメラに向かって自らの役柄を説明したり、エンドロールにサービス映像が盛り込まれ物語を反芻できるよう楽しい工夫がされているからである。
またアン・シュー(「目撃者 闇の中の瞳」)、モーズー・イー(「台北に舞う雪」)、ホアン・ルー(「ブラインド・マッサージ」)、チウ・イェンシャン(「あの頃、君を追いかけた」)ら日本でも顔なじみの俳優が出演していて恋愛劇を彩ってくれる。
デザインと言えば、台湾は書店のレイアウトや本の装丁、CMのセンスの良さなどに元々優れていたものを持っていると思う。その才能がとりわけ発揮されてきたのが歴史的建築物を建て替えるのではなく活用してリニューアルさせる建築物だ。旧台南州庁を生かした国立台湾文学館(台南)や専売局松山煙草工場跡を活性化した松山文化創意園区(台北)がそれに当たる。その他にも新築では故宮南院(嘉義)、台北101といったユニークな建物もある。本作の映像センスの先進性はこれらの各種デザインの積み重ねがあってこそで、生まれるべくして生まれたものと言えるだろう。

「台北セブンラブ」は4月20日より新宿K’s cinemaにて開催の台湾巨匠傑作選2019〜恋する台湾〜の中で20日18時50分、5月1日12時、同8日16時半からの3回先行上映。5月25日よりアップリンク吉祥寺ほかにて順次公開【紀平重成】
「台北セブンラブ」の公式サイト
https://www.taipei7love.com/
同作品公開に向けたファンディングサイト
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/75