第740回「パラサイト 半地下の家族」
「映画史上に残る傑作」には滅多にお目にかかれるものではない。だがカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた本作は正真正銘の大傑作。しかもそれが制作されているまさに同時代に見ることができるのだ。この幸運に巡り合った映画ファンの一人として一言申し上げたい。「ポン・ジュノ監督、ありがとう」と。
筆者が高い評価を挙げる理由は監督がこの作品の生まれた今という時代の空気感を見事にすくい取っているからである。後の時代になって見直され評価の高まる作品ももちろんある。だが本作は世界的に格差拡大が警鐘されている今の状況をリアルに描いていることに価値がある。しかも格差の原因は政府の誤った政策に起因するものもあれば、既得権益層の自己中心的な考えの肥大化まで複雑に絡まっていて、貧困を「自分のせいじゃない」と他人事にしか考えていない人が増えているように思うからである。そんな人々にも貧困問題を考えさせる力がある。
登場するのは貧困のため半地下で暮らす全員失業中のキム一家と高台の豪邸に住むIT企業社長のパク一家という2組の4人家族だ。仕事や学校、地域でも触れ合うことなど滅多にない関係にありながら、キム一家の兄妹が偶然パク一家の家庭教師として相前後して働き始めるところから、この思いもよらないドラマが回転し始め、決して戻ることのできない悲喜劇へと突き進んでいく。
2時間を超えるボリュームながら前半はユーモアにあふれ、後半は怒涛のサスペンスにドキドキさせられ息つく暇もない。観客を満足させるだけではなく、映画の作り手側にも映画というメディアの無限の可能性を強くアピールする作品と言えるだろう。本作を「道化師のいないコメディ」「悪役のいない悲劇」と自ら評した言葉にも監督の自負が込められているようだ。
監督の描写には思わずハッとさせられるエピソードが紛れ込んでいる。パク家の小学生の長男が同じ家族とは知らされないまま出入りをし始めたキム一家のメンバーに同じ特徴があることに言及しドキッとさせる場面だ。直接貧困と結びつけたわけではないものの、キム一家を慌てさせるには十分であり、そこに着目した監督のセンスが光る。見た目は貧困層から脱した様に見せても一朝一夕には身につかない、いつバレても仕方がないという残酷なシーンだ。
差別を徹底して描いているが、それを糾弾する方向にはいかない。とことん貧困のリアルに迫るのである。そしてその貧困を乗り越えるための困難さとそれを手に入れるために必須の家族愛を同時に美しくも残酷に描きエンターテインメント作品として見応えある作品に仕上がっている。その姿勢は職人と呼びたいほど徹底している。
ポン・ジュノ監督自らネタバレ回避を求める異例の「お願い」をしていることも話題になっている。ここまでネタバレに気を使うのは、それだけ面白いものを作ったので最高の状態で見てほしいという思いが募ったのだと理解できる。ポン監督だからこそ許される話だろう。ついでに申し上げると、2回目以降も存分に楽しめそうな作品だ。
もう、言うまでもないことだが、主演のソン・ガンホ(キム一家の父親)や、イ・ソンギュン(パク一家の父親)、チョ・ヨジョン(同母親)らのキャスティングは成功しそれぞれの場面を盛り上げている。
映画のスケールは学生時代に見た「2001年宇宙の旅」とは大きく異なるが、時代を見る確かな目や人間を見つめる眼差しの優しさでは負けていない。そして後世になっても古びることのない普遍性があり、どちらも最高の娯楽作品を見たという満足感をタップリ得ることだろう。
お勧めする。
「パラサイト 半地下の家族」は 東京・TOHOシネマズ日比谷と大阪・TOHOシネマズ梅田の2館で先行上映。1月10日から全国公開。【紀平重成】
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「私のアジア映画ベストワン」の投票期間を延長します!応募の締め切りは2020年1月10日(金)中。その作品を選んだ理由も一緒にお寄せください。ペンネームOK、匿名希望はその旨をお書きください。2019年の公開作品なら先行上映や海外で見た映画も対象です。また映画祭や特集イベントの作品も歓迎します。あて先は銀幕閑話コンタクトフォームもしくはtwitterのDMでお願いします。みなさまのご応募をお待ちしております!
「私のアジア映画ベストワン」の投票いたします。
銀幕閑話さま
いつも参考にさせて頂いてます。
素敵なサイトをありがとうございます。
さて本題、2019年の「私のアジア映画ベストツー」ですが
「バジュランギおじさんと、小さな迷子」と「台北暮色」です。
どちらも、人とのつながりについて、考える機会を与えてくれた作品でした。
今年もいろんな映画に会えることに期待して参りたいと思います。
フェアウェルのレビューお待ちしております!
ナガタイツコさま
私のアジア映画ベストワンにご参加いただきありがとうございます❗ 発表は今週末を予定してます。お名前は「ナガタイツコ」さまでよろしいでしょうか?
発表を楽しみにしてください😄
紀平