第780回「おひとりさま族」
昨年の第17回大阪アジアン映画祭でグランプリに輝いた話題作。韓国で近年女性監督の誕生が相次いでいるが、女性ならではの目線が入ることで作品がよりリアルになっているところなどが高く評価された。
カード会社のコールセンターで働くジナ(コン・スンヨン)はクレームへの対応が冷静で上司から信頼を得ていた。その陰にはスマホの動画を見続けて外からの情報をシャットアウトし、自身の関心を一か所に集中させるという努力があったのだ。
その彼女に異変が起きる。新人の教育係を任されたジナは、質問の多い新人にたびたび集中力をかき乱され、息抜きのはずの昼休みには同じ新人に付きまとわれて心を落ち着かせることができない。やがて指導どころではなくなった上にアパートの隣人が孤独死していたと聞いて、ジナの気持ちは乱れ始める。
韓国では食事は一人でするものではなく家族や友人ら複数で食べるものという伝統的な考え方が強い。そんな風潮に逆らうように主人公のジナに「おひとりさま」での食事をさせるのは、必ずしも古い慣習の欠点を強調したいがためではなく、良い点にも目が届くように期待しているからであろう。一人なら好きな時間にお気に入りの食事を堪能することができる。一方で、数人と一緒なら話題も弾むだろうし、中国料理のように多様な料理を一度に食べることができる。どちらが良い悪いではなく選択の自由があってしかるべきだと言いたいのだろう。
落ち込んでいたジナだったが、孤独死した隣人の死を弔う気持ちのある人たちが、友人家族関係なく、三々五々集まり故人を送る情景を目にする。それは本当にあった儀式なのか、あるいはジナの見た夢なのか。サスペンスの様相を呈した展開の中でジナは少しずつ落ち着きを取り戻していく。
主演のコン・スンヨンは勤勉で仕事のできる女性が少しずつ崩れていく様子を好演。そのジナをイラつかせる新人役はチョン・ダウン。神妙な顔をしながらも顧客の怒りを買ってしまう新入社員を熱演している。
本作で長編監督デビューを飾ったホン・ソンウンは孤独の迷路に陥ったジナを通じて「だれにも孤独感はあり、どこかで誰かとつながっているのだという気持ちになってほしい」と考えているそう。本作をその「応援歌」と位置づけているようだ。
映画祭で受賞しても公開までなかなかたどり着けないという傾向がある中で、本作のように昨年の12月末よりJAIHOから配信されていることは未見者にとっても大変ありがたいことである。
『おひとりさま族』はJAIHOから2月27日まで配信中。 【紀平重成】
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