第475回 楊家将~烈士七兄弟の伝説~
中国人の国民的読み物と言えば「西遊記」や「水滸伝」「三国志演義」がすぐ挙げられる。どれも小説や漫画で古くから日本にも紹介され、あらすじやここぞという場面は名調子で語る人もいることだろう。
ところが、同じ歴史物でありながら宋の時代の将軍とその子孫を描いた「楊家将」は小説はもちろん、漫画や映画、ドラマでも一部の例外を除いて意外に日本へは紹介されていない。その理由はともかく、「三国志」と同じように演義物として庶民の好む形にどんどん作り変えられ、史実からは少々離れても、英雄が縦横無尽の活躍をし親子の愛や忠義が語られるという、まさに中国人の琴線に触れる読み物になっていることは事実である。
その「楊家将」が香港のロニー・ユー監督の手でCGを駆使した歴史アクション大作に仕上がった。
時代は中央アジアまで勢力を伸ばした大帝国、唐が滅亡して王朝や地方政権が次々と入れ替わった五胡十国の約50年が終わり、宋(北宋)がようやく天下を統一した10世紀後半。
皇帝の忠臣として名高い楊一族の家長・楊業(ようぎょう)は、南進してきた北方の遼を討つため先陣を任された。遼の指揮官は、かつて楊業の軍に殺された将軍の息子・耶律原(やりつげん)。一方、宋の指揮官は楊業を快く思わない潘仁美(はんじんび)。敵はおろか味方からも恨まれる危うい空気の中の出陣となった。
案の定、楊業の指揮する先鋒隊は敵の策略と味方の裏切りに遭って総崩れとなり、楊業自身も毒矢で負傷し出城に逃げ込む。父危うしの至急報を受けた楊業の息子7人は、必ず父を連れ帰ると母に誓い、不利を承知で戦場へ向かう。その母は「七子行き 六子戻る」という不吉な御託宣を受けていたが、父を思う息子たちの決意に従うしかなかった。
息子たちは出城を取り囲む敵軍の攻撃をかわし、なんとか父と合流するが、まるでそれを待っていたかのような総攻撃が始まる。瀕死の父を背負っての困難な逃避行。息子たちは死地を切り開き、父を無事母のもとに連れ戻すことができるだろうか。
映画では遼の耶律原らの厳しい追撃に楊業の子供たちが次々と倒れていく悲劇を描いているが、京劇やテレビドラマの元になっている「楊家将演義」では、生き残った子供が家長を継いでからの波乱万条のストーリーに4分の3以上を割いている。また4男延輝(延朗とする例もある)のように遼に捕らわれて女帝の女婿となり、後年宋との戦いで母会いたさに苦しむ京劇の人気演目「四郎探母」のような話もある。楊一族のファミリーストーリーには中華民族の心を引きつける数多くの人間ドラマが織り込まれているのだろう。
映画を楽しむのに、このようなお話を知っておくと、より味わいが増すことは間違いないが、歴史を知らなくても、親子の情愛や忠・孝・仁・義を尽くす男たちの生き様はアジア共通の感情として楽しむことはできるだろう。
もちろん、ロニー・ユー監督がこだわった豪華キャストも見逃せない。長男の楊延平には「風雲 ストームライダーズ」や「東京攻略」のイーキン・チェン、三男の延安にはドラマ「流星花園?~花より男子~」のヴィック・チョウ、六男の延昭には元「飛輪海」メンバーのウー・ズンが扮するなど台湾、香港、中国の若手からベテランまで7人のスターが勢ぞろい。さらに父親にはアダム・チェン、そして母親に「イノセントワールド 天下無賊」のシュイ・ファンが配され、子供たちを案じる一方自身を厳しく律する親の覚悟を見事に演じている。
これらの感情を披露する場面が激しいアクションの合間に織り込まれ、その緩急自在ぶりも見せ所である。
ただ、こうも考えてしまう。ここで恨みを晴らせば、また新たな恨みが生まれてしまうだろうと。この繰り返しが人類の宿命なんだと考えてはあまりにも悲しい。繰り返されるテロや弾圧は映画の中だけで十分である。
「楊家将~烈士七兄弟の伝説~」は12月14日よりシネマート六本木ほか全国順次公開 【紀平重成】
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「楊家将~烈士七兄弟の伝説~」の公式サイト
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