第656回 「17年私のアジア映画ベストワン」(1)
お待たせしました! 本サイト恒例「2017年私のアジア映画ベストワン」を2回に分けて発表します。昨年の1年間に海外も含め公開または映画祭等で上映された作品の中から、みなさんにベストワンとして挙げていただいた作品の順位を競う、お楽しみイベント。
その輝く第1位は……現在もなお公開中のインド映画「バーフバリ 王の凱旋」(「伝説の誕生」を含む)でした!
みなさん、それぞれ熱く語っています。KEIさんは「『イップ・マン継承』も『ドラゴンマッハ』も『29+1』も素晴らしかったですが、年末にこれを見たら王を称えるしかありませんでした。ジャイ、マヒシュマティ!」
一方、せんきちさんも「他にも秀作はあったものの、この映画のインパクトの大きさといったら……。公開中なので中身を詳しく書くことは控えますが、ただ一言、全てが破格とだけ申し上げておきます」
そして、えどがわわたるさん。「壮大なストーリーを複雑な伏線を張らずにシンプルに見せる潔さ。二編とも2時間を超える長尺ながら、テンション高めに展開し、中だるみを感じさせないストーリー展開で、ここまで徹底した作り事を堂々と見せられると、面白い!の一言。S.S.ラージャマウリ監督の力量にねじ伏せられました」
続いて2位は「クーリンチェ少年殺人事件」です。xiaogangさんに伺いましょう。「長いこと再上映が望まれながら、権利問題から幻の映画と化していたこの映画の4Kレストア・デジタルリマスター版公開は、本当に喜ばしい大事件でした。LDを持っているので、憶えるくらい見て、台湾各地のロケ地も訪れていますが、昨年は23年ぶり6回めの劇場鑑賞後、舞台となった建國中學(台北市立建國高級中學)を久しぶりに訪れ、感慨をあらたにしました」。インド映画についても一言どうぞ。「インドで公開されたインド映画では、期待が高かったのに盛大にコケたヒンディー映画“Rangoon”、東京国際映画祭でも上映されたタミル映画『ヴィクラムとヴェーダ』、女優のコンコナー・セーン・シャルマーの長編初監督作“A Death in theGunj”の三本を挙げておきます」。有難うございました。
3位にはチベット人監督ソンタルジャの長編2作目「草原の河」が入りました。松本紬さんは「親子の葛藤がテーマらしいと思いながら見ているうち、圧倒的な自然と信じられないくらいゆっくりした時間が流れる遊牧民の暮らしに引き込まれました。女の子の演技には表情で伝わる強さがあり、まいりました。チベットにはいつか行ってみたいけど、どんどん変わっていくのを見たくないし、気分は複雑です」とコメント。いちこさんも「ほとんどドキュメンタリーとして見ていました。それほどまでに現実感のある映画です。父親役の俳優がこの映画への出演をきっかけに映画業界に興味を示し、スタッフとして働き始めたというのもリアルです(笑)」
4位は意外にも初公開となる「タレンタイム〜優しい歌」です。山本博之さんは「重層的で余白が多い語り方により、観客一人ひとりがそれぞれ物語を受け止められるような不思議な包容力をもった作品です。民族・宗教が混成的なマレーシア社会だからこそ生み出された物語でありながら、特定の国や民族や時代に限定されない普遍的な物語になっているため、マレーシアの事情を知らなくても内容が十分に理解できて心が打たれます」
5位は「新感染 ファイナル・エクスプレス」です。坂口英明さんは「印象的な韓国映画が多かった年でした。中で一本選ぶならこれ。ゾンビ映画はあまり好きではないですが、人間ドラマもサスペンスも楽しめました。お台場の映画館、スクリーンXで見ました。これも面白い体験でした」。うーむ、私もいつか行ってみたくなりました。
6位には「豆満江」を撮った中国出身のチャン・リュル監督による韓国映画「春の夢」が入りました。中国インディペンデント映画祭の中山大樹さんは「基本的には日本にいるので中国映画はあまり見られません。東京国際映画祭で見た『HAVE A NICE DAY』が中国映画のベスト」と断りつつ、アジア映画ベストワンにはチャン監督の本作を挙げました。映画評論家の中川洋吉さんも「アジアフォーカスで見ました。無類に面白い」と推奨します。
7位に行きましょう。東京国際映画祭で上映された台湾映画「大仏+」です。衣川正和さんの感想がユニーク。「ベンツに搭載されたドライブレコーダー。レコーダーが記録するのは前方の光景ばかりではない。レコーダー背後の男女の怪しげなざわめきや事件。そして、PCにアップされたレコーダー映像を見る者たち。カメラの背後に必ず隠れた視線の存在がある。映画を見ている間、坂本あゆみ『FORMA』が共振していた」
8位です。「ローサは密告された」。sugiさんの推薦の弁は「インパクトがあって、すごい作品を見たなという充実感に浸りました。手持ちカメラでの臨場感もあって、本当に自分の前で起きている事の様な錯覚に陥りました。突然のスコール、人々が行き交う熱気のある街、腐敗し切った警察官達のやり取りなど、その空気感が伝わってきました。フィリピンという国の一面を見せつけられた感じでした。ブリランテ・メンドーサ監督の他の作品が見たくなりました」
9位も初公開までが長かった台湾の「星空」です。勝又さんが語ります。「子供ではないけど大人でもない中途半端な時期が捉えられていて、キュンとしました。世界って自分が中心じゃなかった、親ってただの人間だったということに気づかざるを得ない年頃。美しくゆるぎない世界が欠けていく痛み。行き詰った少女と少年が旅に出る。メルヘン調な描写と実写部分が調和していて、動く絵本を見ているよう。この旅で彼らは何かを失ったのかもしれない。しかし同時に他者を世界を受容していく。その一抹の寂寥感まで描かれました。主演のシュウ・チャオは好演ですが、私は少年役のリン・フイミン推しです(笑)。ぼーっとした、何を考えてるのかわからないところに今の子という感じがしました」
そして10位はアニメーションの「我は神なり」。柴沼均さんは「昨年は韓国映画がまれに見る大豊作の年で、その中のベスト1。ヨン・サンホ監督のゾンビもの2本も傑作ですが、ゾンビという寓話だった『新感染』と違って、リアルな話だけに人間の悪意と欲望と愚かさがむき出しでぶつかるおぞましい様子がこれまでかと続きへとへとに。さらにラストの衝撃はものすごく、一瞬意味が分からなかったほどでした。人間のどろどろした情念とか、心の闇を描く作品は、世界でも韓国が一番だと確信します。『新感染』のヒットで本作が日本上映されたのは何よりで、今年も隠された傑作にめぐり合いたいものです」
まだまだ続きます!近日公開の銀幕閑話 第657回 「17年私のアジア映画ベストワン」(2)をお楽しみに。
【紀平重成】