第657回 「17年私のアジア映画ベストワン」(2)
ここからはベストテンに入らなかった作品について、推奨者のこだわりの弁をご紹介いたします。
トップバッターは大阪アジアン映画祭プログラミングディレクターの暉峻創三 さんにお願いしましょう。ベストワンに挙げたのは中国映画「美麗」。「2018年まであと24時間少々というタイミングで出会ってしまった、出来たてホヤホヤ中国映画の途轍もない傑作。監督・周洲と共同で脚本を書き、同性を愛する女主人公に扮した池韵の演技に圧倒される」
こうまで紹介されると見たくてしょうがなくなりますが、ネットではその一部が中国版YouTubeで見られるだけで、全貌は見当もつきません。後は大阪アジアン映画祭で上映されることを祈るばかりです。
大阪アジアン映画祭といえば、過去の同映画祭で上映された作品をベストワンに挙げる人が多いのも今回の特徴です。9位にランクインした「星空」(2012年)もそうですね。それ以外の3作品を続けて紹介しましょう。いずれも2017年の上映作品です。
前沢智八さんはタイの「ギフト」を挙げました。「異なるジャンルの3つのストーリーが亡き国王の曲で繋がるオムニバス作品。特に1話目『ヤームイェン(夕方)』と3話目『ポーンピーマイ(新年の祝福)』はそれぞれ単独の長編として見てみたいぐらいに秀逸でした」
graceさんは香港映画「29+1」です。「『29+1』と『骨妹』のどちらにしようか悩みましたが、2作に共通するのは、女性監督が、自らの思いを温めたオリジナル脚本により、満を持して完成度の高い映画に仕上げたこと。そこにリスペクト! 更には『29+1』は、舞台化作品の映画化なのに、そうは感じない。しっかりしたビジュアルの映画に仕上がっていたことが更に素晴らしかった。中身については一般公開時に皆様に確認していただきたいです。どうか、1人でも多くの方の心に届きますように。そして『骨妹』も、なんとか一般公開されますように!」
杉山照夫さんは「七月と安生」(香港・中国)。「この映画は本当に凄かった。往年の素晴らしい時代の香港映画に回帰したと思えるほどの傑作。2人の女性が6歳の時に出会ってから27歳にいたるまで、一人の男性をめぐる関係を乗り越えて、互いの友情を育む過程をあらわしたもの、といえば聞こえがよいが、そんなあまっちょろいものではない。2人が互いに相手を思いやる気持ち、愛情が強すぎて、後半、各々の人生観を交換する形で生活するシーンに至るところは、その展開の凄さに圧倒されてしまった。どちらが七月なのか、安生なのかわからなくなってしまうところが凄い。また金馬賞で2人同時受賞(周冬雨、馬思純)というのも納得できる演技であった」
大阪アジアン映画祭上映作品を離れ、ご紹介を続けます。
青山さんが推すのは韓国映画「お嬢さん」。「パク・チャヌク監督による、いつものエロ、グロ、復讐!であっても、この作品は吹っ切れた明るさがあって好きです」
吉井さんは中国の「暴烈无声(Wrath of Silence)」を挙げました。「『心迷宮』に続いてシン・ユークン監督らしい複雑なストーリーを見事に作り上げていてさすがです。個性派の出演者も良さが出ているし、社会批判的なところもあり、笑いをとるところは笑いをとり、完成度の高さを感じました」
韓国映画「アシュラ」を挙げたのは千葉一郎さんです。「出演者全員がアウトな人たち、という意味で『アウトレイジ』的な状況ではあるものの、こちらはパク・ソンベ市長という巨悪が頂点に君臨していることで、下々(しもじも)の人々の後戻りできない感が全編に充満しており、さらに嫌な気分になること請け合い(苦笑)。登場人物の行動原理も含めて、映画全体に行き当たりばったりな印象が強いという弱点も無きにしもあらずなのだが、そんなマイナスポイントを差し引いても余りあるのが、前述のパク・ソンベ市長を演じるファン・ジョンミンの怪演だ。その得体のしれない迫力で、主人公を演じるチョン・ウソンの力演を完全に凌駕しており、役者としての格を存分に見せつけている」
劉文兵さんは「迫りくる嵐」(暴雪将至)です。「悪を徹底的に描く人間描写と、シャープな映像とが相まって、サスペンス映画の醍醐味を楽しませてくれるドン・ユエ監督の力作」
栗田さんは韓国映画「MASTER マスター」を挙げていただきました。「ミドルエイジになっても、なお輝きを増すイ・ビョンホンの魅力が余すところなく描かれていて、マニラでのアクションシーンも最高でした。アクション映画の壮大さ、緻密さは、ハリウッドの次に韓国映画のレベルの高さを感じました」。イ・ビョンホンには内面を静かに表現する「エターナル」の公開も控えていますので、表現力の豊かさを味わうことができそうです。
Lucaさんは 日本・香港インディペンデント映画祭で上映された「ショックウエーブ」でした。「タイトル通りに“ショックなウエーブ”の映画! 香港の香港島と九龍半島とをつなぐ海底トンネルでの人質事件、まだ数度しか訪れていない私でさえバスで通ったことのある場所が舞台だったので、もう始終ドキドキしっぱなし。途中、心をぎゅっとつかまれました」。
こうやって見ると、やはり公開・上映作品が多い中国語圏と韓国の作品が並びますね。そんな状況に一石を投じることができるでしょうか。昨年の東京フィルメックスで最優秀作品賞の同時受賞に輝いた「殺人者マルリナ」と「見えるもの、見えざるもの」の2作品が作られたインドネシア映画です。もとはしたかこさんは「フィルメックスで何気なくチケットを取った『殺人者マルリナ』には衝撃を受けました。残酷な仕打ちを受けながらも自らが殺人者として男たちを成敗する主人公には驚かされ、大胆な行動に出る展開も、ここ最近の世界的な女性問題にも重なることがあり、痛快で興味深い作品でした」と熱い感想を寄せてくださいました。
さあ、いよいよ締めくくりは筆者の作品。ベストワンはフィリピンのラブ・ディアス監督による「立ち去った女」です。「映画という芸術の醍醐味をこれでもかと堪能させてくれる作品の完璧さ、何度見ても発見がある伏線の見事さ、光と陰の絶妙な対比、かくも深い人間観察の表象に、打ちのめされました」
みなさま、今回も「私のアジア映画ベストワン」にご参加下さり本当にありがとうございました!
【紀平重成】