第719回「レインボー・リール東京でも上映『ビリーとエマ』」
2015年に名称を「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」から「レインボー・リール東京」に変えた同映画祭が今年第28回目を迎えた。7月5日(金)から6日(土)まで東京ウィメンズプラザホールで、同12日(金)から15日(月・祝)までスパイラルホールで計6日間にわたり開催される。
全16作品の中には3月の大阪アジアン映画祭で海外初上映され大好評だったフィリピン映画「ビリーとエマ」(サマンサ・リー監督)も含まれている。保守的な教育と10代の妊娠、キリスト教と同性愛、さらに経済格差といった重いテーマを扱いつつも、きらめくような青春映画に仕上げているので、この機会にご紹介したい。
舞台は1990年代半ばのフィリピンの田舎町。事情があって首都のマニラから転校してきたビリーは厳格な女子校の雰囲気になじめないでいた。髪はショート、くるぶしがスッポリ隠れるブーツをはき、休み時間は図書館にこもって本を読みふける。そんなビリーを仲間と遠巻きにして見ていた優等生のエマだったが、課題授業でペアを組んだことがきっかけとなり急速に2人の距離が近づいていく。やがて2人は親密な感情を抱き始めるが、ある日エマが妊娠していることが発覚して……。
サマンサ・リー監督は2017年の大阪アジアン映画祭でも上映された前作の「たぶん明日」がOutfest(ロサンゼルスで開催の世界最大級LGBTQ映画祭)で「新しい才能」賞を受賞して注目された。
映画の中でビリーの愛読書として紹介されるのは「Rubyfruit Jungle」(リタ・メイ・ブラウン著/1973年出版)だ。レズビアンの少女が貧困や母との確執を乗り越えて成長していく物語。その本を読めば「独りじゃないと思える」と劇中のビリーが言うのは、レズビアンであることをカミングアウトしているリー監督自身が悩んだ体験を振り返り「若い頃の自分のようなLGBTQの子たちに、映画を通して仲間がいることを伝えたい」という思いからだったろう。
そこには孤独に陥るよりも人とつながろうという前向きのメッセージがうかがえる。そのせいだろう。追い詰められたはずのエマが自暴自棄に陥ることなく、積極的に行動していく姿が学園青春ドラマのようにノリがいい。終わり方もスカッとしている。リー監督の思いが詰まった作品といえるだろう。
個人的には立ち居振る舞いが初々しく魅力的なビリー役のザール・ドナトに注目したい。本作が初出演、初主演というのが信じられないほど存在感があった。エマ役のギャビー・パディラものびのびとした演技で好印象。
そしてサマンサ・リー監督が次にどのような作品を引っ提げて来日するのかも楽しみである。
【紀平重成】