第758回「僕の名はパリエルム・ペルマール」
インド映画といえば歌って踊っての娯楽映画と思われがちだが、差別問題を真正面から取りあげるなど社会的なメッセージを盛り込み、なおかつリアルで力強い展開により商業映画としても見ごたえのある大作が登場した。現在開催中の「インディアンムービーウィーク2020」でも話題になっている本作品だ。
ダリト(不可触民)出身のパリエルム・ペルマール(出演:カディル、「馬に乗った神」の意、通称パリヤン)は弁護士を目指し法科大学に進学した。意欲はあるものの英語で進められる授業についていけないパリヤンは教授からクラス全員の前でひどく叱られ、さらに「(所属カースト優遇策の)留保制度入学のクソめ」と侮辱される。だが、パリヤンの抗議は聞き入れられず、教室から追い出されてしまう。
パリヤンが弁護士を目指すきっかけとなる、村で起きたある差別事件のエピソードを聞いたクラスメイトのジョーティ(出演:アーナンディ、通称ジョー)はパリヤンが試験に合格できるよう英語学習の手伝いを申し出る。それをきっかけに、二人は仲を深めていく。
ジョーは家族に紹介したいからと彼を姉の結婚式に招くが、パリヤンがダリト出身だと気付いたジョーの父親は嘘をついて彼女を帰宅させ、パリヤンを別室に呼び出す。何も知らず部屋に入った途端、ジョーのいとこのリングたちが乱入して激しい暴行を加え、ジョーの父親は「娘に近づかないでほしい」とパリヤンに警告する。
それ以後、パリヤンはジョーとの距離を置き、結婚式に姿を見せなかった理由を彼女から問い詰められても、当日の出来事を決して言わなかった。一方、クラスメイトでもあるリングはパリヤンへの憎悪を強め、大学内でもさらにいじめをエスカレートさせる。
そもそもパリヤンらへ嫌がらせは映画の冒頭から紹介されている。パリヤンの地元の上位カーストたちはパリヤンの愛犬カルッピ(タミル語でクロちゃんといった意)をわざと線路の枕木に結わえ付ける。気づいたパリヤンが駆けつけるが目の前でカルッピは列車に轢(ひ)き殺されてしまう。このエピソードからして不穏な展開。振り払っても振り払ってもまとわりつくような悪意が感じられるのだ。そんないきさつがあっても耐え忍び、またどんなに暴力を受けても屈しないパリヤンに、ジョーの父とリングは殺人請負屋を使ってパリヤンを葬ろうとするのだが……。
この先の展開は実際に作品をご覧の上、堪能していただくしかないが、怒涛のラストまで見るだけでも力が入って、とにかく体力勝負。それでも見た甲斐があったと大満足するであろう。インド映画はどうしてこうも魅力的なのかと問われれば、14億人に近い巨大人口の圧力と宗教的対立といった不安定社会に臆することなく、堂々と切り込んでいく映画人の存在があるからだと思う。
実際、本作の製作は『カーラ 黒い砦の闘い』を撮ったパー・ランジット監督が自身のプロダクションで制作を引き受けたことから実現した作品といわれ、脚本も担当したマーリ・セルヴァラージ監督は背中を押されたように伸び伸びと作品作りに入り込むことができたという。
ともあれ日本初上映の話題作。同映画祭スタッフは「このような社会的なメッセージを持つ作品を紹介できることが、小さな映画祭の醍醐味です」と話している。【紀平重成】
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上記の『僕の名はパリエルム・ペルマール』をはじめ計10作品をそろえた「インディアンムービーウィーク2020」が開催されています。映画製作が盛んな5つの言語圏(ヒンディー、タミル、テルグ、マラヤーラム、カンナダ)のヒット作、注目作品を日本語字幕付きで上映中。詳しくは下記公式サイトをご覧ください。
https://imwjapan.com/
作品=『無職の大卒』『ウイルス』『浄め』『僕の名はパリエルム・ペルマール』『ジャパン・ロボット』『お気楽探偵アトレヤ』『結婚は慎重に!』『ビギル 勝利のホイッスル』『ストゥリー 女に呪われた町』『伝説の女優 サーヴィトリ』
日程=
・キネカ大森:2020年9月11日(金)~ 10月8日(木)
・新宿ピカデリー : 2020 年 9 月 25 日(金)~(終了日未定)
・MOVIX 利府/MOVIX 三郷/ MOVIX 柏の葉/ミッドランドスクエア シネマ/ MOVIX 京都/ なんばパークスシネマ/ 神戸国際松竹/MOVIX倉敷/MOVIXあまがさき/MOVIX三好/ MOVIX清水:9 月 25 日(金)~ (終了日未定)
・刈谷日劇:10月2日(金)~(終了日未定)
・シネ・リーブル梅田:10 月 9 日(金)~ 10 月 22 日(木)