第782回「赦し」
『東京不穏詩』『コントラ』の2作で注目されたインド出身のアンシュル・チョウハン監督が本格派の映画の作り手であることを改めて印象付けた話題作。
7年前、娘をクラスメイトに殺された元夫婦と、当時17歳だった加害者の女性。癒すことなどできない3人の葛藤を主題に据え、揺れ動く救済と赦しという奥深いテーマに真正面から挑んだ監督渾身の作品だ。
17歳の夏奈は壮絶ないじめに耐えかね、リーダーの女生徒を刃物で刺し殺してしまう。殺人罪として懲役20年の刑に服役することになる夏奈 。その7年後、「初犯の未成年に情状酌量もなく懲役20年は長すぎる」と加害者側の弁護士が事実認定不当の再審請求をし、物語は大きく動き始める。
映画は法廷劇として展開するが、法廷はカメラワークが単調になりがちで撮影には難しい場所とも言えるだろう。しかし本作では夏奈が犯行に至ったショッキングな動機が徐々に明らかにされるなど、映像から目が離せなくなる作りになっている。
今なおイジメに遭う夢に苦しむ夏奈。その一方で殺人者は刑務所で罪を償うべきだという「正義」に固執する被害者の父親・克。そして事件後に離婚した元妻で、早く裁判を終わらせたい一心の澄子。裁判の進行に合わせるように3人の心は揺れ動き、そこにサスペンスの要素が巧みに取り込まれることで、映画全体が緻密な心理ドラマに仕上がっている。
葛藤する3人の主役に加え、有能ではあってもうさん臭ささもにじませる弁護士、そして重く緊迫した空気に満ちた法廷内で的確に審理を進めようとする裁判官(真矢ミキ)の演技も本作を効果的に引き締めている。特に真矢の落ち着きのある柔らかな声は、唯一かすかな希望を暗示しているようだ。夏奈を演じた松浦りょうと合わせキャスティングの妙も作品のグレードを上げている。監督の次回作が早くも見たくなる出来栄えだ。
『赦し』は3月18日よりユーロスペースほか全国順次公開。また大阪アジアン映画祭開催中の3月11日12時~(シネ・リーブル梅田4)と15日15時50分~ の2回上映(同)【紀平重成】
『赦し』の公式ページ
https://yurushi-movie.com/