第787回「流転の地球~太陽系脱出計画~」
「遠い将来太陽系は消滅する」とか「人類は生き残りをかけて宇宙に旅立つ」。このような言説にロマンを感じる人もいれば、「そんな先のことなど誰も証明できない」とはなから相手にしない人もいるかもしれません。
もともと本作はヒューゴー賞を受賞した中国のベストセラー「三体」原作者リウ・ツーシンによる同名短編小説を映画化した中国初のSF超大作です。
香港映画の人気スター、アンディ・ラウが量子科学研究者トゥーに、そして宇宙へ飛び立つ宇宙飛行士リウにウー・ジンがキャスティングされたことも話題になりました。
さて、太陽系が消滅するのが本当ならその前に地球を安全な場所へ大移動させてしまおうという想定で描かれた本作。中国主導のもと地球連合政府による「移山計画」が動き出します。このネーミングは「どんなに困難なことでも努力を続ければ、やがては成就する」という「愚公山を移す」の故事成句を思い出させます。
とはいえ掛け声だけではかなわないことは明らか。映画の中では1万基にも及ぶ核融合エンジンを使って、地球を太陽系から離脱させるという凄まじいスケールの話になっていきます。移住民の乗る宇宙船もニューヨークのマンハッタンや上海の繫華街などを優に超す大きさです。
計画が動き出すと早速月に異変が起き、軌道を外れ出し、さらに地球へ墜落するまでのカウントダウンも始まります。地球は太陽系から離脱することが出来るのでしょうか…?
気になるのは中国の描かれ方。自国制作の作品ということもあり、中国中心になるのはやむをえませんが、月の潮位変動で自由の女神像が砂に埋まってしまったことを示唆するカットには「人類は未来社会でも相変わらずいがみ合っているのか」と複雑な気持ちになりました。
ともあれ65億円の制作費をつぎ込んだSF超大作。中国はもちろんのこと、アメリカでも大ヒットしたとのことですが、これが両国の相互理解を進める上で少しでもプラスになることを祈るばかりです。【紀平重成】
『流転の地球~太陽系脱出計画~』は3月22日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開