特集:青春アジア映画3選
「泣けるアジア映画3選」をご紹介してからだいぶたっているが、みなさん、お待たせしました。アジア映画3選特集の第2弾は「青春アジア映画3選」。候補作が多くてリストアップは難航し、このサイトで紹介したものという条件をつけても14本が残った。国・地域別の内訳は台湾8、インドと韓国2、中国とタイ1(下記別項ご参照)と圧倒的に台湾がリード。筆者の好みが知らず知らず台湾に偏っている? それとも台湾には青春映画づくりの良き伝統があるからか? うーむ、おそらく、その両方なのだろう。
選考に当たって良き青春映画の条件とは何かを考えてみた。いままさに恋愛中の現役青少年はもちろん、過去の思い出に浸る中高年まで共に大事な条件として挙げそうなのは、映画館を出たときに思わず笑みがこぼれるような心弾むラストが用意されているかどうかではないだろうか。例えば日本公開が古いので、このサイトではまだ紹介していないウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」(1994年)は、映画を見た後にそれが映画館の中だろうと、ビデオやDVDを見た直後の自宅であろうと、頭の中でママス&パパスの「夢のカリフォルニア」をリフレインさせながら決定的な場面を反芻したに違いない。
逆に言うと、叶わぬ恋に胸焦がす主人公への同情心を募らせたからこそ、その後の喜びに共感できたのだろう。そうすると恋の成就は障壁が高ければ高いほど、喜びも倍加し強い印象を与える。この障壁が上手く描かれているかどうかが良き青春映画の二つ目の条件ということになる。
そして三つ目の条件は? これは当たり前といわれるかもしれないが、美しい俳優の存在を挙げたい。私の場合はグイ・ルンメイが出ていれば即「合格」だ。
以上三つの条件にすべて当てはまり、最終的に残った3作品のトップバッターは、もうお分かりのように「藍色夏恋」(2002年)である。
2002年の第15回東京国際映画祭で「藍色大門」の原題で日本初上映された同作品にはイー・ツーイェン監督と一緒に主演のチェン・ボーリンとグイ・ルンメイも来日し、サイン会は長蛇の列をなした。もちろん私もその中のひとり。映画の感動に浸りながら、サインに加え握手までしていただき、その時のノートは今もお宝である。
物語はこうである。勝気な女子高生モン(グイ・ルンメイ)は、仲良しのユエチェン(リャン・シューホイ)に頼まれて、水泳部のチャン(チェン・ボーリン)という男子部員にラブレターを渡す。だがチャンは手紙を書いたユエチェンにではなく、モンに恋をしてしまう。そしてチャンの大胆なアタックにもかかわらず、なぜかモンは期待に応えようとはしない。それどころか、彼に思いがけない事実を打ち明けるのだった。
監督が発掘した新人ふたりのみずみずしい演技が素晴らしい。亜熱帯の陽光に照り輝く街路樹の緑、二人の弾む想いを表すかのように追いつ追われつして疾走する自転車。もうそれだけで美しく完結した世界が広がる。青春の宝物が心に流れ込む。
それから5年。24歳になったグイ・ルンメイはジェイ・チョウ監督・主演の「言えない秘密」に再び高校生役で出演する。インドのアーミル・カーンのように40代になっても大学生を演じる俳優がいるのだから、この世界に年齢は関係ない。それよりも本当に演じる役の年齢に見せてしまう力が備わっているかどうかである。幸運なことに、彼女は自然な演技力に加え形のいい鼻とスッキリした口もとによって、どこから見ても高校生にしか見えない女の子になったのである。
たとえばこんな場面。転校生のシャンルン(ジェイ・チョウ)が音楽教室で見かけたシャオユー(グイ・ルンメイ)に好意を抱く。今までに聞いたことのない美しい旋律に惹かれたシャンルンはシャオユーに曲名を尋ねる。彼女は笑みを浮かべ「誰にも言えないヒ・ミ・ツ」とささやくのだった。
彼女の謎めいた眼差しは、この作品の鍵であり、映画の魅力を最大限に高めている場面である。そのミステリアスでいたずらっぽい魅力的な表情を披露したグイ・ルンメイの女優としての成長ぶりと、その演技を引き出した監督の才能をも感じるのだ。
ともあれ、シャオユーの好意に満ちた眼差しと、時おり見せる涙の本当の意味を知ったシャンルンが取ったラストの行動は、青春映画にふさわしい一途な思いがストレートに発露される名場面となった。
さて青春アジア映画の3本目。まだ迷っている。既にグイ・ルンメイ作品を2本続けて選出しているので3本とも彼女の作品ではまずかろうという常識的判断と、そこで遠慮してはグイ・ルンメイファンを名乗る資格なしと言われることを恐れる気持ちの間で揺れている。しかし、青春時代を描く彼女の作品としては恐らく最後になるかもしれないヤン・ヤーチェ監督の「GF*BF」(2012年)はやはり挙げておきたいという気持ちが勝り、かなり個人的性格の強い「青春アジア映画3選」を完成させた。
「GF*BF」は男2人、女1人の仲良し高校生が40代に差し掛かるまでの30年近い三角関係を描いている。その道中は、いたずらの限りを尽くすはすっ葉な高校生のメイバオ(グイ・ルンメイ)が、やがて甘く切ない恋に胸を痛め、さらに妊娠したことを知って産むかどうかで悩むという、痛みを伴う長旅だ。ジョセフ・チャンとリディアン・ヴォーンが演じる2人の男性の間で揺れる心を説得力あふれる演技で魅せてくれる。
この作品を、青春はいっとき、人生は長く辛いことの方が多いと見るか、それとも若い時には見えなかったことが分かって、それもまた楽しいと思うかは人それぞれだ。
後半、人生の甘いも酸いも知り社会人として台北でひっそり暮らすジョセフ・チャン演じるチョンリャンに再会したメイバオが二人で昔よく行った場所を懐かしみながら無邪気に遊ぶ場面。男女を超えたいわば“戦友”同士の愛もいいものだと思わせる。それもかつての青春があってこそである。
熟年になったグイ・ルンメイもそのうち見たいものだ。
●青春アジア映画3選の選考に残った14作品一覧
<台湾>
「クーリンチェ少年殺人事件」
「藍色夏恋」
「花蓮の夏」
「言えない秘密」
「あの頃、君を追いかけた」
「GF*BF」
「ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー?」
「コードネームは孫中山」
<韓国>
「建築学概論」
「サニー 永遠の仲間たち」
<インド>
「バルフィ!人生に唄えば」
「きっと、うまくいく」
<中国>
「So Young ~過ぎ去りし青春に捧ぐ~」
<タイ>
「ミウの歌 ~Love of Siam」