第423回 韓国の「パーフェクト・ゲーム」

「パーフェクト・ゲーム」の一場面 (c)2011 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved(以下同じ)
実は元巨人ファンだ。草創期の少年サンデーや少年マガジンの表紙を飾る長嶋の笑顔にうっとりしながら育った。1959年の天覧試合で長嶋が阪神の村山からサヨナラホームランを放ったシーンは何度見ても興奮した。
15年ほど贔屓(ひいき)にしたが、訳あってライバルの阪神ファンに。村山はもういなかったが、掛布や藤田平ら新しいヒーローに夢中になった。
そして「空白の一日」事件が起きる。野球協約の盲点を突いて、巨人は江川と電撃契約。それを認めない阪神はドラフト会議で1位指名する。結果は巨人のエース小林繁と江川の世紀の交換トレードに。それ以後、“悲劇のエース”と言われた小林繁と江川の投げ合いは、双方の意地のぶつかり合いに加え、伝統球団同士、あるいは東京と大阪という地域対立も加わり、球史に残る戦いが繰り返された。
これ、映画になりそうなネタですね。
と思っていたら、東京国際映画祭のアジアの風で上映された「パーフェクト・ゲーム」(パク・ヒゴン監督)は条件のよく似た実話を元にした韓国版“宿命の対決”物語だった。
80年代の韓国。釜山を拠点とするロッテ・ジャイアンツのチェ・ドンウォン(チョ・スンウ)は努力で一時代を築いた伝説の投手だった。その姿に憧れ、後を追って頭角を現してきたのが中日でも活躍したソン・ドンヨル(ヤン・ドングン)。こちらは光州が本拠地のヘテ・タイガースの選手だ。
なんとチームの組み合わせまで江川VS小林繁のケースと同じである。ちなみに今年の米大リーグ、ワールドシリーズも108回の歴史で初めてのジャイアンツVSタイガース。阪神、巨人は同じリーグなので日本シリーズでの対戦はないが、せめてCS(クライマックスシリーズ)に阪神が出ていればと悔やまれる。
同じプロ野球でも韓国のファンは過激で熱い。相手選手の罵倒は当たり前。それどころか贔屓のチームがだらしなく負ければ、生卵はもちろん、小便入りの容器まで味方の選手に浴びせるのだ。

チェ・ドンウォン(チョ・スンウ=右)を尊敬する若き日のソン・ドンヨル(ヤン・ドングン)は裂けた指の手当てをしてあげる
そんなファンが熱望していたのが通算で3度しかなかったという両選手の先発直接対決だった。映画にも出てくるが、両選手の最盛期がずれていて、体がボロボロのチェ・ドンウォンが対決を避けたと見られたり、逆にタイガースの監督が努力の人であるチェ選手を高く評価し、人間的にもさらに大きくなってほしいソン・ドンヨルに「まだ対決するには早い」と意図的に対決を抑えたというエピソードも紹介されている。
しかし87年5月、ついに運命の延長15回、約5時間に及ぶ投手戦の幕が切って落とされる。両者譲らずの死闘で、2人の投手はもちろん、ほかのナインや監督、そしてファンやメディアまでも巻き込んで感動のクライマックスになだれ込む。
チェ・ドンウォンを演じたチョ・スンウは中学時代投手になるのが夢だったという野球少年。脚本を読んで即座に出演を承諾したという。それだけにチェ・ドンウォンそっくりの投球フォームは華麗で迫力も十分。相手役のヤン・ドングンも野球経験ゼロとはいえ4か月の特訓で、若きエースの風格漂う投球フォームをマスターしたようだ。

延長15回の死闘を経て握手を交わす二人
2人の頑張りに加え、コンピューターグラフィックスを駆使した映像は、リアルで間近で見ているような臨場感にあふれる。
元々はライバル同士でも、死闘を経ることで不思議な連帯感を持つということはよくある。小林繁と江川も時を経て黄桜のCMに一緒に出演するなど、仲直りを演じている。
「パーフェクト・ゲーム」でも2人の握手はさわやかなシーンだった。もうひとつ感動の場面もあるのだが、それは日本公開か、DVDの発売を待つしかない。
来年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも強敵となるはずの韓国プロ野球。その歴史を知っておくのも、悪くはない。願わくば、よきライバルになることを求めて。【紀平重成】
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「東京国際映画祭」の公式サイト
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