第427回 ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝

豪華スターが華麗な剣さばきを披露する (C)2011Bona Entertainment Company Limited, All Rights Reserved (以下同じ)
「武侠映画を3Dで撮りたい」。中華圏の映画監督なら誰しもが思いつく発想だが、それを最初に実現させたのは、やはり巨匠ツイ・ハークだった。しかも主演は人気、実力とも申し分のないジェット・リー。ほかにも東アジアを代表するトップスターが勢ぞろいし、見たこともない3Dの迫力映像と相まって、至福の超娯楽大作に仕上がった。
3D映画にも当たりはずれがあるようだ。中でも、「なぜ、これを3D映画に?」と疑問を感じる作品もある。画面が暗い。人が小さく見える。これでストーリーに内容がなければ「お金を返して!」と思うのも当然だろう。

諜報機関トップのユー(チェン・クン)は武術の腕も一流
その点、「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」(龍門飛甲)はツイ・ハーク監督らスタッフの工夫と熱意が実を結び、武侠映画の新次元到来を感じさせる華麗にして力強い映像となった。
明の時代。都から遠い辺境の地に、60年に一度の恐ろしい砂嵐が迫っていた。嵐による天変地異は砂漠の下に眠る幻の財宝都市を一時的に出現させるという言い伝えが。

ジャオ(ジェット・リー=右)は諜報機関の幹部と渡り合う
この地で唯一の宿屋「龍門」には、諜報機関のトップで武術にも長けたユー(チェン・クン)の率いる武装集団と、秘宝を狙う盗賊団、誰かを待つ風情の美しい女剣士リン(ジョウ・シュン)、さらにユーの打倒計画を練る義士ジャオ(ジェット・リー)が集結し、一触即発の空気がみなぎる。
小競り合いから総力を挙げた死闘へ。混乱の最中、巨大竜巻が襲来。誰が仲間で誰が本当の敵か。さらに最後まで生き残り、秘宝を手中に収めるのは誰なのか……。
娯楽映画の王道を行く集団抗争劇に秘宝探しの冒険、友情と裏切りという要素が盛り込まれ、それだけで存分に楽しめるが、それをさらにヒートアップさせたのが3D効果だろう。

宿屋「龍門」から敵情視察する盗賊団らの次の一手は
たとえば壁を突き破って落下する丸太は、そのまま観客席に飛び込んでくるかのように迫って来るし、皇帝の子を身ごもり身の危険から都を逃げた女官スー(メイヴィス・ファン)が捕まってしまう船着き場を上空から見下ろす女剣士は、立体映像により立ち位置の高さと不安定さをリアルに感じさせ、それだけで武術の達人であることを観客に理解させる。さらに荒野の宿屋に迫る巨大な砂嵐は凶暴さを露わにし、死闘を繰り返す2人の剣客は竜巻にのみ込まれた後も、暴風に吹き飛ばされながら秘術の限りを尽くす。
ツイ・ハーク監督が言う。「これは僕が最近考えていたことを凝縮させた映画だ。3Dは静止した宿屋や背景の砂漠にも驚異的な効果を与えてくれる。僕にとってこの映画は、そういう要素を取り入れた初めての3D作品なんだ」(プレス資料から)

盗賊団の女首領(グイ・ルンメイ)。この目つきは本物?
ジェット・リーも力説する。「ハリウッドの3D映画では、ひとつのショットを完成させるために90分かかる。今回の映画では、ふたつのカメラチームを使って1日に6ショットしか撮影できなかった。でも僕らは素早く学んで、2カ月後には40分で1ショットを撮影できるようになったんだ」(同)
彼らの熱意が伝わってくる。そしてこうも思う。映画はしょせん作り物、とはよく言うが、そうではあっても限りなく本物に見せかけるために知恵を絞り尽くす芸術なんだと。
その3D同様に力を入れたとよくわかるのがキャスティングである。ジェットリー、中国からジョウ・シュンと一人二役のチェン・クン、「孫文の義士団」(テディ・チャン 監督)で映画デビューした歌手のリー・ユーチュン(クリス・リー)、台湾からはグイ・ルンメイとメイヴィス・ファン。この6人のいずれもが存在感あふれる演技を披露しているのがうれしい。
とくにチェン・クンの二役演じ分けは見事だったし、グイ・ルンメイ演じるワイルドな盗賊団の女首領ぶりも新境地を開いた感があった。
最後にもう一言。中国語圏映画に出てくる荒野の一軒宿屋というのは、もうそれだけで絵になる。酒に料理、強そうな男、そして凛々しい女剣士とくれば、楽しい展開が起こりそうという期待感が膨らむからだ。古くは「大酔侠」(キン・フー監督)、最近では「女と銃と荒野の麺屋」(チャン・イーモウ監督)と大監督も手掛けている。作品の出来はともかく、監督なら一度は手がけたい構図なのかもしれない。
「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」は1月11日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国公開【紀平重成】
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「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」の公式サイト
http://dragongate-movie.jp