第446回 「きっと、うまくいく」
2010年の「したまちコメディ映画祭in台東」で上映されたインド映画「3バカに乾杯!」がタイトルを変え初めて日本公開される。
その「3バカに乾杯!」を2年半前に見た時、本コラム第313回のラストで次のように書いた。
「この傑作が映画祭の上映だけではあまりにも惜しい。事前にネットで映画観賞予約を募るなどの方法でもよいので、公開に踏み切る配給会社はいないものだろうか。もう一度スクリーンを前に大勢の観客と一緒に笑い、そして泣きたい。」
その願いが本当に実現したのである。しかも全国拡大ロードショーという願ってもない形で。大英断を下した配給の日活にはもちろん拍手を送りたいが、その決断を促した形の多くのファンにも感謝したいのである。「あなたの声が届きましたよ」と。
この劇的な公開には、すでに予兆があった。東アジアの興行ランキングは、それぞれお国がらが出て必ずしも同じにはならないが、ときどき歩調を合わせるように多くの地域で上位にランクインする作品がある。最近では「桃さんのしあわせ」(原題「桃姐」)がそうだった。そして「きっと、うまくいく」も韓国、香港、台湾で大ヒット。いい作品に国境はない、面白いものは万国共通で支持されるということを証明した作品と言えるだろう。
この作品は、名門工科大を卒業した同級生3人の久しぶりの再会から始まり、ただ一人姿を現さないランチョー(アーミル・カーン)という仲間を探しに出る旅を描く一方、10年前の波乱多き学生時代と交互に話を展開させる構成の妙をまず挙げることができるだろう。そして後半はミステリーの様相も見せ始め、さらに少々下品なお笑いあり、この10年のインド社会の変わり様、たとえば成績とお金に最大の価値を置く社会への風刺あり、「そう言えばかつての日本もそうだった」という共感ありと、見所満載、サービス精神テンコ盛りの作品である。
当然のことながら「ボリウッド映画」の定番、“歌って踊って”も、もちろん手抜かりはなし。ラージクマール・ヒラーニ監督による脚本と演出が見事で、40歳を超えたアーミル・カーンによる学生の怪演や、カリーナ・カプールが適役と言ってもいいほどにインテリ風の美貌の中に可愛らしさも感じさせる演技も素晴らしく、170分という長さをまったく感じさせない。躍進著しい経済力と歩調を合わせるかのようにインド映画の“地力”がさらなる高みに達したかのようである。
いろいろ見所はあっても、作品の核になるのは「何のために学ぶのか」という問いかけだろう。それを良く示しているのが次のようなエピソードだ。
名門工科大に入学した新入生たちは、いきなり寮の先輩たちから荒っぽい歓迎を受けることになる。ズボンを脱がされ、パンツ姿で整列し……。そこへ遅れてきたのがランチョーだ。儀式を拒否しトイレに逃げ込むランチョーに、先輩はドアの前で待ち構え立ちションの洗礼を浴びせようとする。気配を察し窮地を脱する策を思いめぐらせた彼は、小学校時代に習った理科のある知識を思い出す。
単なる知識の詰め込みより、いつでも活用できる生きた学問こそを学ぶべきだという考え方が、映画全体に通奏低音のように流れている。まるで最近のインド社会を覆う「競争」と「お金」に最大の価値を置く気分に軽くジャブを打って、それも笑いのネタにしているようなフシさえうかがえるのだ。自殺も増えていると聞けば、なんだか日本のことを見ているような気もして来る。
作品はインドの歴代興行収入記録を塗り替えている。この作品の日本公開実現にあやかって、ことしの沖縄国際映画祭のコンペに出品された「バルフィ!」(アヌラーグ・バス監督)の日本公開も配給さんにお願いしたい。柳の木の下にドジョウは2匹いるかもしれない。きっと、うまくいきますよ!
「きっと、うまくいく」は5月18日より全国拡大ロードショー。同作品に先がけて4月20日からは次の3作品が「ボリウッド4」のくくりでシネマート新宿ほか全国順次公開。サルマン・カーン、カトリーナ・カイフ共演の「タイガー~伝説のスパイ~」、シャー・ルク・カーン、プリヤンカー・チョープラー出演の「闇の帝王DON~ベルリン強奪作戦~」、そしてシャー・ルク・カーン、カトリーナ・カイフの「命ある限り」。おなじみの俳優がずらりと並ぶ最近の作品ばかりだ。【紀平重成】
【関連リンク】
「ボリウッド4」の公式サイト
http://bollywood-4.com/index.html
第5回沖縄国際映画祭の公式サイト
http://oimf.jp/cgi-bin/program/index.cgi?c=zoom&id=14
「バルフィ!」を紹介している「キネマ随想」のコラム
https://my-mai.mainichi.co.jp/mymai/modules/kinemazuiso81/
BARFIは、ものすごい量の映像を他の映画をまねしてつくられた映画です。チャップリン、バスターキートンをはじめ、韓国映画や日本の北野武の映画のシーンもまったく同じ内容でとりいれています。
アヌラーグバス監督はこれはコピーではなく、オマージュであるといっていますが、そっくり同じ場面がどんどん出てきますので単なる物まねだということはド素人にもわかります。
元の映画を知らない人はいい映画だと思うかもしれませんが、この映画はいいと思うシーンが全部コピーで、演技派に見えるランビールカプールの演技も物まねでしかありません。
こういう映画が日本で公開されるのには私は反対です。