第449回 「スタンリーのお弁当箱」

お弁当を見つめるこの笑顔! 真中がスタンリー君 (c)2012 FOX STAR STUDIOS INDIA PRIVATE LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED =以下同じ
あなたは子供時代、周りの人に言い訳をするため嘘の話をでっち上げたことはありませんか。宿題を忘れた際に「犬にノートを食べられてしまいました」とか言って。弁当がないため昼食時に教室を抜け出し一人水を飲んだり、友達から弁当を分けてもらったり。そのたびにひねり出されるスタンリー少年の愉快な活劇譚。これは物語好きという自らの才能を生かして難局を乗り切った少年と彼の優しい仲間たちの心温まるお話だ。
インド映画といえば豪華スターが歌って踊って、アクションあり、ラブロマンスありの展開が3時間近く続くエンターテインメント作品というイメージが強いが、この作品は全く逆で、低予算、スター不在、出てくるのは少年と先生と弁当だけというシンプルな内容ながら、笑って泣けて、インド社会の厳しい現実まで垣間見せてくれる優れた出来栄えになっている。メジャーの配給が付くという幸運も味方し、作品は大ヒットしたというから世の中面白い。

美味しそうなお弁当が並ぶ「スタンリーのお弁当箱」のチラシ
顔のあざを先生から見とがめられても、陽気なスタンリーは通学時に暴漢相手にいかに自分が活躍したかをまるで本当に起きた事件のように熱く語ってみんなを笑わせる。そんな彼はクラスの人気者だが、家庭の事情で学校に弁当を持ってくることができないため、昼食の時間はそっと教室を抜け出し水道水を飲んで空腹を紛らわせている。
見かねた級友たちは弁当を分けてあげるが、自分も弁当を持ってこない国語のヴァルマー先生に見つかってしまい、弁当を横取りされた上、スタンリーは先生から「ネズミめ、弁当を持ってこない生徒は学校に来る資格がない」と追い出されてしまう。
この作品が成功しているのは、誰にも思い出が詰まっている弁当を題材にしていることだろう。下のチラシに写っている弁当のなんとカラフルで美味しそうなことか。もうこれだけで作品のヒットが約束されていると言っても過言ではないだろう。
また国語教師を自ら演じたアモール・グプテ監督が「これはワークショップ」とだけ説明し、子供たちには脚本の代わりに本物の教科書を渡した作戦も効いている。毎週土曜日に集まった子供たちは1年半の撮影期間中、ずっと映画の撮影であることを知らなかったため、自然な表情が見事に掬い取られている。
なかでも意地悪をする先生に抗議の思いを込めて見つめる子供たちの目力の強さといったらない。あるいは気落ちするスタンリーに「先生のことなんか気にするなよ」と声を掛ける優しさ。思わず“名優っ”と叫びたくなるほどだ。

陽気なスタンリーの唯一の悩みはお弁当だ
映画の後半に出てくるが、スタンリーは叔父さんのレストランに住み込みで働いていることが分かる。人口12億のインドでは働く児童が1200万人、家事労働を含めれば5000万人とも言われ、経済成長に沸く表の顔とは別の厳しい顔をのぞかせる。
スタンリーが明るく健気に話を創作していくのは、性格もさることながら、十分とは言えない環境にあって、想像力を駆使して自分も周りも楽しませるお話をすることで自身を鼓舞しているという側面もあるように見える。

スタンリー(下)とその仲間たち
スタンリーは体を使った表現に才能を見出し、後半自身の窮地を救っていく。それを手助けするのが級友たちという展開がまたいい。また温かく見守る魅力的な英語のロージー先生の存在もスタンリーに味方する。
彼は評判の弁当を持参するようになる。教員室にまで持ち込み、先生に分けながらこう語る。「お母さんが4時に起きて作ったんだよ」
スタンリーのおしゃべりはこれからも続きそうだ。
スタンリー役のパルソーは2001年ムンバイ生まれの11歳。監督の子で映画初出演という。
「スタンリーのお弁当箱」 は6月下旬よりシネスイッチ銀座、梅田ガーデンシネマほか全国順次公開【紀平重成】
【関連リンク】
「スタンリーのお弁当箱」の公式サイト
http://stanley-cinema.com/