第458回 4つの争点、映画を通して考える。
目前に迫った参議院選挙で投票の参考にして欲しいと緊急企画されたのが「4つの争点、映画を通して考える。」と題したドキュメンタリー6作品の上映会だ。慰安婦、原発、沖縄、憲法と硬派のテーマが並ぶが、80年代を中心に貴重な映像の数々は、今見ても新鮮で力強さにあふれている。
80年代の作品が多いのは、バブル景気が弾ける前の日本経済の高揚期にあたり、様々な矛盾が露呈する一方で、その問題に切り込もうというエネルギーも豊富だったということだろうか。スクリーンに懐かしく元気な日本が浮び上がる。
「毎日がアルツハイマー」の関口祐加監督のデビュー作「戦場の女たち」(89年、制作当時は関口典子監督)は太平洋戦争の激戦地、パプアニューギニアで長期間のフィールドワークを重ね、従軍慰安婦の実像を浮かび上がらせた力作だ。
アカデミー賞の監督賞など各賞の常連、アン・リー監督から「あなたにはコメディーの才能がある」と激賞されたことのある関口監督。同作品でも「史上最強の日本軍が村を守ってくれた」と信じる村人が、錆びた鉄カブトをかぶって日本の軍歌を朗々と歌う哀しみと可笑しさがない交ぜになった場面もあるにはあるが、丹念に拾い集められた村人や旧日本軍の兵士、従軍医師、看護婦らの証言は慰安婦の実態を余すところなく伝えている。
婦人科医として派遣された元医師は着任先の壁に張り出されていた「慰安所規定」を写真に撮っていた。「100人の慰安婦が呼ばれていた。日本人は20人で(風俗の)プロだった。80人は韓国から連れてこられた素人だった」と慰安所になっていたラバウルのコスモポリタンホテルの写真を見ながら振り返る。
軍司令官だった男は「女たちは陸軍用、海軍用と区分けされていたほか、日本人は将校用、コリアンと沖縄の人は兵士用という区別もあった。差別というんですかねえ」と証言する。
ラバウルには看護婦も派遣されていた。元看護婦長が言う。「慰安婦は戦争には付き物の必要悪。その人たちを連れて行かねば現地の人に迷惑をかけることになる。看護婦もそういう人たちのお陰で守られていたと思う」
しかし、現地の女性の中には目をつけられて無理やり身の回りの世話をさせられていた人もいたようだ。所長の世話役だった女性は日本兵が去ったあと進駐してきたオーストラリアの兵士に強姦された。日本兵の女だったからというのが理由だ。「結局女が一番バカを見る」とその女性は吐き捨てる。
今度の参院選で最大の争点の一つである原発問題を追った2作品も80年代の作品で、日本が原爆被爆体験国から原子力大国に突き進んでいく道のりを粘り強く描いている。
その一つ、土本典昭監督の「海盗り-下北半島・浜関根」(84年)は、74年に起きた放射能漏れのため、その後16年間にわたり日本中をさまよった原子力船「むつ」の母港建設予定地として翻弄され続ける下北半島北端の村、浜関根の漁民を描く。補償金をつり上げ、誘致反対の漁民を分断して漁業権を放棄させていく開発推進側の手口が鮮やかに浮かび上がる。対照的に補償金受け取りを拒否したむつ小川原の漁師は「宝の沼です」と豊かな自然に感謝する。しかし下北はその後も原発や新型転換炉の計画が次々と持ち上がり、原子力施設のメッカになっていく。自然の恵みで生きてきた漁民は追い込まれていくばかりだ。その姿が東電福島第一原発の事故で漁に出られなくなった漁民の姿と重なる。
沖縄に米軍基地の75%が集中している問題は参院選の大きな争点にはなっていないが、72年の本土復帰前の沖縄を描いた「沖縄列島」(69年、東陽一監督)を見ると、憲法問題につながる視点を得ることができる。
映画の冒頭、コーラの空き瓶を打ち砕く再生ガラス工場のシーンが映し出される。コーラはアメリカを象徴する商品。まるでアメリカは沖縄から出ていけと言わんばかりのシーンに「日本の政府とね、日本の国民はね、私たちをアメリカに売りはらった……それは娘を売りはらった親父と同じ……恥ずかしくないのか」というキツイ言葉が重なる。
映画は最初から告発調で始まる。しかし車道に寝転がって車を止めようとする女、郷土をアカから守ろうというデモ、少年院の体操など点描されていく知られざる沖縄の風景は、まばゆい陽光と同調するように妙に明るい。
そうかと思うと、劇団のメンバーでもあるバスガイドが乗務中に歌を披露した後「ベトナムで戦争をしています。世界平和が来ることを祈ります」とあいさつする。嘉手納空軍基地から飛び立ったB52が北ベトナムに爆弾を落とすいわゆる北爆をしていて沖縄が臨戦態勢にある現実を映し出している。
近づく本土復帰問題で将来に希望を抱いて語った次のような女性の発言にはドキリとさせられる。「日本に帰ったら昔こうされたんだからまたそんな二の舞をするようなバカがいるか訴えて、そんなことをさせない政治をする」。日米安保で今なお沖縄に広大な米軍基地が残されていることを知っているだけに、胸の内がきりきりと痛むのだ。
慰安婦、原発、沖縄、憲法を描いた6作品に共通するのは、日本人が戦前から一貫して人の犠牲に目をつぶってきているという現実だろう。言いかえると、それは差別だ。資源問題や人口減少等で大きな成長が望めない今、なお差別を助長して国内外の緊張を高めていくのか、それとも差別解消に努め少ないパイを分かち合っていくのか、私もよく考えて選挙に臨みたいと思う。
「『慰安婦』『原発』『沖縄』『憲法』4つの争点、映画を通して考える。」 は7月13日(土)、在日本韓国YMCAで開催【紀平重成】
【関連リンク】
上映会の公式サイト
http://www.cine.co.jp