第470回 101回目のプロポーズ ~SAY YES~

「101回目のプロポーズ ~SAY YES~」の一場面。チェリストとして活躍するイエ・シュン(リン・チーリン)(c)2013 NCM FUJI VRPA HAM (以下同じ)
中国映画に変調の兆しが……。と言っても大陸の興行成績自体は絶好調を維持していて、たとえば上半期の興行成績は過去最高の65億元(約975億円)を稼ぎ出している。変調の中身とは、中国映画の成長を牽引してきたスペクタクルや時代劇など話題の大作が後退し、どちらかと言えば小粒の作品が大健闘していることだ。その一例が日本のトレンディドラマ「101回目のプロポーズ」(1991年)をリメークした同名の映画「101回目のプロポーズ ~SAY YES~」である。

自分の熱い思いを伝えようとイエ・シュンの目の前で道路に立ち「僕は死にません」と叫ぶホアン・ダー(ホアン・ボー)
監督はレスト・チェン。こう言えばアジア映画ファンなら、「ああ、台湾映画『花蓮の夏』の……」と思い出されるだろう。浅野温子と武田鉄矢が共演した日本のドラマが中国・香港や台湾、韓国の東アジアで繰り返し放送され、作り手としては新味を出さねばならないやりにくい作品を何とかまとめた手腕は認めるとして、それでも2億元(約30億円)を稼ぎ出す大ヒットにつながったのはなぜか。もちろん、直近3作品の興行収入の合計が300億円を超えて、いまや中国映画には欠かせない国民的スターのホアン・ボーや、「レッド・クリフ」で呉の軍師、周瑜の妻、小喬を演じ、CMでも日本人に馴染みの深いリン・チーリンが共演するなど、テレビドラマ版にも勝るとも劣らない豪華キャストを実現させたことも大きいだろう。しかし、ヒットの真の要因には中国社会の変化が色濃く投影されていることを挙げない訳にはいかない。

男の熱い思いに、徐々に心を開いていくイエ・シュンだが……
オリジナルのテレビ版は、バブル末期の日本が舞台。美人チェリストの矢吹薫(浅野温子)が、99回もお見合いに失敗した中年サラリーマンの星野達郎(武田鉄矢)と恋に落ちるという「?」付きの展開がかえって話題となり、最終回は36.7%の高視聴率をあげている。

武田鉄矢が20年後の星野達郎を演じて二人の仲を後押しする
映画版は基本的にテレビ版を踏襲し、ヒロインが浅野温子からリン・チーリンに、武田鉄矢の役はホアン・ボーに代わっている。美しく才能豊かな女性と、風采は上がらないが誠実で一途な男性という組み合わせは全く同じだ。

死んだと思っていた婚約者が現れ動揺するイエ・シュンとホアン・ダー
ここで注目したいのは、91年当時の日本と現在の中国が良く似ているところだ。高度成長の果てに経済が過熱し、やがてバブルがはじけた日本。対して、かつての日本以上の猛スピードで世界第2の経済大国にのし上がった中国。同様に、豊かさを享受して育った若者の感性をくすぐるトレンディドラマが90年代初頭の日本で流行し、いままた、中国でも金に糸目をつけない歴史大作に飽きた映画ファンが「都会風のラブコメディ」とでもいうような新感覚の小品を選び始めている。フォン・シャオガン監督の「狙った恋の落とし方」やニウ・チェンザー監督の「愛 LOVE」、そして「101回目の……」もその延長線上にある。
面白いことに、今回の映画制作に関わった多くの人たちが「101回目のプロポーズ」に思い入れがあることである。この企画の言いだしっぺで、中国側プロデューサーのツァオ・ファーイー氏が日中合作映画として同作品を選んだのがそもそもの始まりだ。監督も何度か浮かんでは消えを繰り返し、最終的に選ばれたのがレスト・チェン監督。高校時代に姉と「101回目の……」の放送に夢中になったという体験がある。脚本家のジャン・ウェイさんは日本のドラマ通だ。ヒロインのリン・チーリンは原作ドラマの大ファンで、浅野温子さんは憧れの女優という。

彼女への思いの深さに気付き、ホアン・ダーはある行動を取る
かつての「101回目体験世代」が20年の月日を経て、日中合作の「101回目のプロポーズ」作りに結集。その作品が中国で大ヒットし、ちょうど東アジアを一巡して日本に“凱旋帰国”したことになる。
作品の見所は、ホアン・ボー演じるホアン・ダーが原作でも有名になった「僕は死にません」というセリフでリン・チーリン演じるイエ・シュンの心をぐっと引き寄せるシーンや、なんと武田鉄矢が20年後の星野達郎役で出演し、二人の仲を後押しするという重要な役どころを演じる場面だ。
また個人的には「ドリアンドリアン」でデビューし、最近では「遠い帰郷」や「桃さんのしあわせ」で味わい深い演技を披露したチン・ハイルーがヒロインの友人役として存在感を発揮しているのがうれしい。
CHAGE and ASKAがドラマに続いて日本版の主題歌「SAY YES」を熱唱している。
「101回目のプロポーズ ~SAY YES~」は10月19日より角川シネマ新宿他全国公開【紀平重成】
【関連リンク】
「101回目のプロポーズ ~SAY YES~」の公式サイト
http://www.101propose.jp/