第478回 「夏休みの宿題」のヤン・リャンユー君に聞く

インタビュー後にポーズをとるヤン・リャンユー君(2013年11月29日、筆者写す)
台湾のチャン・ツォーチ監督最新作は、美しい映像に加え故エドワード・ヤン監督の「クーリンチェ少年殺人事件」でデビューした張震(チャン・チェン)を彷彿とさせるような子役の大物ぶりが話題を集めている。そのヤン・リャンユー君に聞いた。
単独取材の直前行われた東京フィルメックスでのQ&Aと行列までできたサイン会では12歳とは思えない落ち着いた受け答えと、熱心にサインに応じる姿が初々しかった。
出演を依頼された時の最初の感想は?
「監督は最後まで主役だとは言ってくれませんでした。適当に遊んだり、演技してくださいと言われ、でも僕の演技が多いとは思っていました」
じゃ、薄々と(主役を)感じてたんですね?
「主役とかそういうイメージじゃなくて、僕の演技が多いなというだけ」
決まったときに、できるのかなと思ったり、そういう戸惑いはなかったのでしょうか?
「全然なかったです。というのは監督はいろいろな学校から子供たちを集めたんですけど、5、6人は僕も良く知っている子供たちだったし、他の子たちとも遊んで見るとすぐ親しくなって、緊張とかしませんでした」
作品は台北に暮らす10歳の少年バオが夏休みに台北郊外に一人で暮らす祖父のもとに預けられるところから始まる。初めての農村での生活や祖父の奇妙な行動に最初は戸惑うが、地元の子供たちとも仲良くなり、徐々に順応してゆく。やがて少年には乗り越えなければならない厳しい現実が明らかになり……。
バオ少年は笑い顔より戸惑った顔の方が多く、演技が難しかったと思いますが、そういうことは感じなかった?
「たしかに僕にとっては難しかったです。僕は演じたバオという少年と性格が全然違っていてすごく明るいし、活発で動き回るのも好き。彼みたいに孤独じゃないので、さみしいような顔をして、と言われた時はすごく難しく感じました」

「夏休みの宿題」の一場面。祖父はまだ田舎暮らしになじめない孫のバオに話しかける
それがうまくできたのは何か秘訣があったのでしょうか?
「撮影の現場で監督が、今すごく不機嫌な感じで、さみしい感じでと場面ごとに言ってくれるので、それを勉強しながら言われたとおりにやったんです」
私の娘は映画の主人公と同じように夏休みの最後の日にまとめて日記を仕上げたこともあります。ヤン君はどうですか?
「台湾では2カ月ぐらい夏休みがあるんですね。それでぎっしりではなく20日から30日分ぐらい日記を書きなさいと言われるんです。でも僕も同じです。最後の日に書きます(笑)」
余裕があるんですね?
(恥ずかしそうに体をよじらせて笑い、その仕草につられて周りも笑う)

やがてバオは友達が増えていき……
お父さん、お母さんを紹介してください。
「お父さんはすごく料理が上手です。家事もいろいろと。ですからとても大変です。お母さんはすごく優しいです。忙しいし、仕事にも疲れて大変そうです。難しいな、こういう質問って」
そういう時に助けてあげようと思わないんですか?
「ご飯を食べ終った後で、兄と姉の3人で後片付けをしたりとか、パパにマッサージをしてあげます」
(取材に同席した父親に向かって)お父さん、その時の気分はどうですか?
「すごく気持ちが温まります。疲れている時にシャオリャンがやってくれると、とてもうれしい」
「マッサージは僕だけがやります」
再び父親が「彼の力が今ちょうどいいんです」
そうかなと思いました。
「ロカルノ国際映画祭で記者の人にやってあげたんです。今やってみましょうか?」
えっ! では簡単に(笑)。ワッ、うまい(笑)。とてもいい、ありがとう。いや驚きました(笑)。

上映後のQ&Aで最初は緊張していたが、すぐにこの通り
さっきのQ&Aで「将来俳優になるとしても今はやらない、大人になってから」と言いました。それはなぜ? 誰かに言われたのでしょうか?
「自分で考えたんです。中学生ってすごく勉強が忙しいんです。全然ほかのことをやっている時間がない。でも大学を卒業したら時間がタップリあるんじゃないかと思うんです。だからお父さんもお母さんも僕の考えにそうしなさいと言ってくれます」
なるほど、しっかりしている。ところでチャン・チェンという俳優は知ってますか?
「僕は台湾でよくミニ張震と言われます」
あっ、やはり言われる? それはうれしいですか、将来そうなろうと思いますか?
「でもチャン・チェンってどういう人か分かりません(笑)。名前は聞いたことがあるけど、どういう映画に出てどういう役をしたのか僕は知らない」
将来、対談できるといいですね。
「もちろん、そうなったらうれしいです」
ロケで一番印象深かったことは?
「面白いことがありました。僕も、映画の中で一番の親友役の男の子もトランプが好きなんですが、夏休みが終わってお父さんと一緒に台北に帰るところを撮るのは、もうすぐ秋になる季節でした。夏の光線と秋の光線は違うと監督は思っていて、夏の光みたいにしなくてはいけないので、ちゃんと撮ったらトランプしてもいいよと言われました。車に乗っている最後のシーンですね」

息子のサイン会に相好を崩す父親の楊栄凱(スタンリー・ヤン)さん(2013年11月29日、筆者写す)
待つのはつらかった?
「彼と僕は一緒の学校じゃなかったんです。でもイベントで会うことがあったので、またトランプができたんです」
日本の漫画「ONE PIECE (ワンピース) 」が好きと聞いてます。どこが面白いですか?
「小さいころからお兄ちゃんが大好きで見ていたので、僕も一緒に見ていたんですね。たぶん他にないような、大人の言葉でいうクリエイティブなところがいいんじゃないですかね(笑)」
来日は初めて?
「4回目です。1回目は沖縄、2回目は箱根、3回目は大阪のユニバーサルスタジオジャパンで岡山にも行きました。いろいろいい景色を見ました」
台湾の方が美しくていいなと思いますが……。
「いやあ、日本の方がきれいじゃないですか」(笑)
ホウ・シャオシェン監督は知ってますか?
「(台湾の)金馬賞で何回も会いました。監督は僕に今は役者をやらないでしっかり勉強しなさいよと言いました」
そう思いましたか?
「はい、そう思います」
私は彼が大好きです。
「『冬冬の夏休み』」の監督ですね。
あっ見ている?
「予告編を見たのと、どんな作品かいろいろな人から聞きました。今回の作品と少し似ているみたいですね」
一部ね。是非大人になってからもう一度インタビュ-したいと思います。じゃ、約束です。(笑)
可愛くて、カッコよくて、性格はいい。少年の顔と大人の顔が同居するヤン・リャンユー君。今しか見ることができない“作品”に出会ったような感動を覚えた。【紀平重成】
【関連リンク】
「第14回東京フィルメックス」の公式サイト
http://filmex.net/2013/