第483回 「13年私のアジア映画ベストワン(2) 」
先週に続き「私のアジア映画ベストワン」はいよいよ上位5作品の紹介です。2013年に公開・上映された映画の中で読者のみなさんが「ベストワン」に推した作品の第5位は東京国際映画祭で上映された香港映画「激戦」(ダンテ・ラム監督)でした。
「血の抗争」と「激戦」の2本をベストワンに推したゆずきりさん。(えっ、ベストワンに2本も選ぶなんて、そんなのアリ?という貴方。彼女の次のようなコメントを読めばきっと納得していただけると思う)「『ビースト・ストーカー/証人』や『密告・者』でコンビを組んできたダンテ・ラム監督とニック・チョンの、これまでの最高の作品だと思います。『証人』などでは、登場人物たちは一生懸命だけどかなりつらい目にあっていました。この作品では試練はあるけれど生きる希望を感じ、ニックの可愛さ・魅力も全開。香港での公開からあまり間をあけずにこの作品を見ることができてうれしかったです」。そう、話題作がこんなに早く。映画祭のディレクターに感謝しなくては。
そして4位は驚くなかれ。11年2位(台湾で公開)、12年7位(大阪アジアン映画祭)、13年(日本公開)は前年より順位を上げ3年連続ランクインした台湾の「セデック・バレ」。海外で見た作品もOKという本コラムの性格上、この偉業がなされたということだろう。2度と現れない記録かもしれない。
勝又さんの熱い弁を聞こう。「5月にユーロスペースで一部・二部通して見ました。台湾の人が親日的なので忘れがちですが、やはり、日本は“侵略”していたんだな、手前勝手な理屈で、原住民たちを利用していたのね、と改めて思い知らされました。おためごかしの大義名分を振りかざして支配しようとし、そのうしろめたさから、余計に相手を貶め、同時に恐れるあまり逆上して騒乱を大きくする、あの卑劣な日本人役の俳優のうまさも伴って、心にピリッと痛みを感じました。超渋いモーナ・ルダオをはじめとする出演者たちも、パリコレに出したくなるようなガタイのいいイケメンが目白押しで、目の保養にもなりました」
続いて3位はインド映画「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」。こちらも現地公開は実に07年と古いが、インド映画ブームに乗って、“真打”の登場となった。
せんきちさんの、これまた愛情に満ちたコメントが心を癒やしてくれる。「映画への深い愛情と情熱が人間そのものへの深い愛情と情熱に転化する稀有な作品でした。こんなにも切なく悲しく美しいラストなのに、見終わってあんなにも幸せになれる映画というのも珍しいと思います。美術やカメラ、脚本等の細かいところにまで神経が行き届いているので、何度観ても新しい発見がありました。結局、公開初日以降、映画館で28回も観てしまいました(笑)。たぶん、これからも観続けると思います」
昨年の4月以降、年末まで日本のどこかで見る事ができた超ロングランの興行も記録的。これからも、どこかでせんきちさんの踊る姿(マサラ上映)を見かけることができるかもしれない。
いよいよ2位。香港のウォン・カーウァイ監督「グランド・マスター」でした。
文筆家の宋莉淑さん。「ウォン・カーウァイ監督のファンなので、今回の作品も大いなる期待を寄せていたが、その想像を裏切ることのない、観客を圧倒する素晴らしい作品だった。至高を求める者たちの魂がよく表現されていて、獲得と喪失による人間の美しさとはかなさを感じた。主演のトニー・レオンも今までとは違った表情を見せている」
「こ~んなまいにち」というBlogを書いているgraceさんも「最初は公開を信じてはいないものの予定にあわせて一昨年末に香港旅行を計画したものの、行っても上映しておらず(笑)昨年2月に台湾で拝見。綿密な美術設計に美しい映像、心を振るわせる様々なせりふに演技。いままで見てきた『映画』とはいったい何だったのだろう?と思うぐらい心をわしづかみにされました。そして、日本公開のプレミアに駆けつけてびっくり。台湾での内容に付け加わっているだけでなく様々な箇所に手が入っていて更に更に洗練されているではありませんか! 巷ではアクションがないとか時系列がわかりにくいとか酷評されているようですが、ため息の出るような映像美、多くが既成のものなのに画面にびったりと寄り添う音楽、豪華の限りを尽くしているのに上品で美しい美術設計。そして更なる上のステージに行ってしまったトニー・レオンの演技。ウォン・カーウァイの映画以外では見られない内面演技を披露するチャン・ツィイー。そして重厚な演技で深く印象に残るワン・チンシアン。この映画に出会えてよかった(ぶじ完成して良かった・笑)と思える映画で今のところ人生で一番、映画館に通った映画となりました」とベタ惚れの様子。
さらにxiaogangさんも「初見のアジア映画のベストワンは、やはりさんざん待たされた『グランド・マスター』です。激動の中国史を葉問の半生に重ねつつ、すれ違った想い、過ぎ去った時間への悔恨のようなものが描かれていて、まぎれもない王家衛映画になっていました」と強くプッシュする。
雑誌編集者のSさんは「今日が仕事始め。すぐ校了なもので、じっくり練ってるヒマがなくて申し訳ありません」と言いつつ、迷わずにこの一作を推す。
そして、とうとう来ました。晴れのベストワン。もうお分かりですね。ベストテンに4本も送り込み、1位までかっさらったインド映画のトップは「きっと、うまくいく」。
東アジア各地区の興行成績を速報する「東亜電影速報」の主宰者banzong 坂口英明さんは「ここ数年、東アジアのどの国でも話題になり、日本でも見事に評判をとりヒットしたうわさのインド青春映画が2013年のベスト。文句なしに面白かった」と賛辞を惜しまない。
冬猫さんは「インドという国の奥深さ、幅広さ、変化、しなやかさなどがぎゅぎゅっと詰め込まれた一作。登場人物がみな魅力的です。サントラも買って、毎朝“ズビドゥビ”です。チャトルくんが一番好きです」。私もしばらく曲がリフレインして困りました。
吉井さんは「前半は細かいネタで惹きつけておき、後半は一気呵成の伏線回収で泣き笑いさせられて、3時間近い上映時間をすっかり忘れました。中国インディペンデント映画祭の『卵と石』や『唐爺さん』も良かったですが、『きっと、うまくいく』の印象がそれらを上回っています」と楽しんだ様子。
えどがわわたるさんも「学園青春コメディーではあるが、“いまをどう生きるか?自分にとって大切ものは何か?”が本作のテーマと受け止めた。監督・脚本のラージクマール・ヒラニの腕だけでなく、新作『Dhoom3』(日本未公開・インド歴代興行記録を塗り替える大ヒット作)でも主演するアーミル・カーンらの好演と相まって、170分の長尺全てが楽しめる作品だった。IT分野をはじめとして、経済成長が著しい一方、古い慣習や旧態依然としたルールが残っているなかで、インドが変わり始めているのを、映画でも感じとれるのではないだろうか」
インド映画の躍進はどこまで続くのか。そして日本公開はどこまで増えるか。ベストワンにコメントを寄せた方々からの次のような熱い声をご紹介したい。
“English Vinglish”:「あいち国際女性映画祭で、楽しく楽しく拝見しながらも最後は号泣。日本公開の決定が本当に嬉しいです」(graceさん)
“Lootera”:「2013年公開(現地)のインド映画のベストワンです。ランヴィール・シン、ソナークシー・シンハーという旬な俳優の共演で、時代の雰囲気、魅力的なロケ地、美しい映像、抑制された語り口などがすばらしく、ぜひ日本でも紹介してほしいと思います」(xiaogangさん)
さあ、配給さん、どうしますか【紀平重成】