第484回 「最後の晩餐」
この時期、中韓合作映画の日本公開というと、緊張する国際関係になぞらえて「映画の世界でも中国と韓国が連携強化か」などと警戒する声も聞こえてきそう。しかし本作は韓国映画「ラスト・プレゼント」のオ・ギファン監督が中国、台湾の人気俳優を得て北京、上海の美しい街並みと美味しそうな料理の数々を披露するラブストーリーだ。
主演のエディ・ポン(彭于晏)は台湾の俳優だが、「DNAがアイ・ラブ・ユー」で中国のユー・ナンらと共演して以来、「恋人のディスクール」「愛LOVE」「TAICHI/太極 ゼロ 」「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」「激戦」とヒット作にも恵まれ、その大半の作品で海外の監督や俳優らと仕事をしてきた中国語圏の人気スターである。
声がかかるのはカナダ在住経験があり英語に堪能なことはもちろんだが、誰からも好かれる甘いルックス、さらに映画に合わせて筋肉ムキムキの見事なボディに改造することをいとわない向上心があるからだろう。
ストーリーはまったく別だが、エディ・ポンが出演する作品で共通点の多い映画「愛LOVE」がある。映画は台北から始まっているが舞台は中国(北京)にも広がる。自ら出演しているニウ・チェンザー監督は中国側からみれば海外の監督ということになり「最後の晩餐」(原題「分手合約」)のオ・ギファン監督と同じケースだ。出演者で共通するのはエディ・ポンだけだが、彼の醸し出す都会的なオシャレな雰囲気は、今回の作品には欠かせなかったはず。そして偶然にも中国における興行成績が為替レートの変動はあるものの共に32億円でピタリと重なる(「愛LOVE」2億5000万元、「最後の晩餐」1億9200万元)。この金額は中韓合作映画としては史上最高記録となる。
エディ・ポンの相手役は「失恋33天 Love is not blind」に出演し今中国で注目の新進女優バイ・バイホー(白百何)。陶芸家を目指す女性チャオチャオ(バイ・バイホー)と、三ツ星シェフを目指すリー・シン(エディ・ポン)は相思相愛の仲。リー・シンの方から求婚を持ちかけたが、チャオチャオの返事は意外にも「別れましょう」。それは互いの夢がまだ道半ばだからという。夢をかなえるために別れ、5年後の再会を約束する。彼女は上海で陶芸家として、彼は北京でシェフとして修行にはげみ、5年後の約束の日、チャオチャオのところにリーから電話がかかってくるが……。
韓国の映画やドラマといえば難病モノや貧富の差を越える恋愛といった定番の展開を予測する向きもあるかもしれないが、その先入観は今作ではある意味裏切られることになるかもしれない。なぜなら劇中で女性側は常に取り仕切り、時に強気のセリフもはくなど、現代中国の女性事情をリアルに反映しているからだ。互いの夢がまだ実現していないのに結婚を持ち出す男に、収入面も含めて「現実を見て」と言い放つ姿は、決して不自然ではなく、よくあることだという。
また、泣かないヒロインに対し男の方はしばしば涙を流す。別れを提案したのも女なら、弱みを見せまい、心配させたくないと気丈に振る舞うのも女の方である。こんな描き方の方が現実に近いので中国の若い男女から支持されたとも言えるかもしれない。しかし、現実よりやはり夢を見たいという女性は中国にいないのだろうか。ともあれ、そんな中国恋愛事情を探るのには格好の作品と言えるだろう。ちなみに脚本は他のスタッフが韓国人でほぼ占められているのに対し中国のチン・ハイイェンという女性が書いている。
中韓合作映画としては、これまでにも韓国のヒョンビンと中国のタン・ウェイ主演の「レイトオータム」などが製作され、その数は増える傾向にある。その中での中韓合作映画最大のヒット。これを機会に政治や経済と同様、さらに提携が進むのか、あるいは市場の大きい日本も取り込もうとするのか、注目していきたい。そしてこうも思う。せめて映画の世界では両国とも仲良くしていきたいと 。
「最後の晩餐」は3月1日よりシネスイッチ銀座、横浜ブルク13ほか全国順次公開【紀平重成】
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「最後の晩餐」の公式サイト【紀平重成】
http://bansan-movie.com/