第485回 「デリーに行こう!」

旅の道連れ、いや、出会ったことが悪夢の始まりでトラブル続きに
まず作品の名前がいい。そこに行けばきっと何かいいことがあるのだろうと思わず想像してしまう。実際、主人公のミヒカは自分の価値観では考えもしなかった“プレゼント”をそこで手に入れるのだから。ひょんなことから同行者になったマヌの口癖「大丈夫! 大したことはない」がじんわりと効いてくる。

デリー行の飛行機が機体不良で手前の空港で降ろされ、タクシー、徒歩と散々な目に
インド最大の都市ムンバイに住むミヒカ(ラーラ・ダッタ)は大手投資銀行の頭取。ブランド品を着こなして部下に次々と指示を出し、自分の誕生日より出張の方が大事と考えるやり手のキャリアウーマンだ。しかし夫の住むデリーに向かうところから歯車が狂いだす。
一見快適な暮らしも、一定の条件がそろって始めて成り立つということがよくわかる出だしだ。
飛行場に向かったミヒカのタクシーは渋滞に巻き込まれる。せっかく動き出した車線にトランクの荷物をぶちまけ進路を塞いだのが悪夢のすべてを演出することになる布屋のマヌ(ヴィナイ・パタック)である。そのせいで予定していた飛行機に乗り遅れ、仕方なく乗った格安航空便は機体トラブルで手前の空港に到着。ならばとタクシーでデリーに向かうが、やる気のない運転手と険悪になり助っ人に入ったのが、またしてもデリーに帰るというマヌ。

ようやく列車に乗れそうになったのに列車は走りだしミヒカ(ラーラ・ダッタ)は必死だが
「大丈夫! 俺も一緒に行くから!」とセリフは頼もしいが、足を引っ張るどころか潔癖症のミヒカの神経を逆なでするようなトラブルが果てしなく続く。それでもミヒカは旅の終わりにマヌの隠された事実と、すっかり変化した自分が満更でもないという心境に向き合うことになる。

インド映画定番の踊りはこんな形で登場
ちょっとあつかましい男が乗り込んで旅をめちゃくちゃにするという展開は中国映画の「ロスト・イン・タイ」に共通するが、「デリーに行こう!」で迷惑するのは男性ではなく女性の方。しかもマヌの口癖の「大丈夫! 大したことはない」「泣きたいときは大声で笑う」という負け惜しみのように聞こえる人生訓が次第に重みを増してくる。ドタバタ調のコメディでありながら生き方について結構大事なヒントが織り込まれているヒューマンドラマに変わって行くのである。
映画ではエリートのミヒカに代表される都会的でお金に価値を置く考え方とドン臭くて行き当たりばったりのマヌのようなお金に縁のない生活を対比させ、それをムンバイとデリーというインドを代表する二つの都市の関係に置き換えている。つまりムンバイからデリーに向かうという映画のタイトルにも使われている言葉には、お金ですべてを解決することなどできない、人生もっと楽しもうよというメッセージが込められているのかもしれない。

旅の終わりはちょっぴり物悲しいが安堵感もあって思わず笑顔
もうひとつ映画ではインド各地の人々が色々な服装や建物とともに紹介されていく。その違いを描いて行くことで文化や考え方の多様性を見せて行く。いま一つの価値観を押し付けようという動きが日本でも、中国でも顕著に見られるが、いろいろな考え方があっていいと思う方がはるかに健全だ。どちらがいい悪いではなく、両方あってそれぞれいいということだろう。
終始笑って楽しい映画の中にこんなにも豊かなメッセージが込められていて、さすがインド映画と感心させられるのである。見終われば心が温まっている自分に気がつくはず。ぜひご覧あれ。
「デリーに行こう!」は2月15日よりオーディトリウム渋谷ほか全国順次公開【紀平重成】
【関連リンク】
「デリーに行こう!」の公式サイト
http://www.bollywoodeiga.com/