第494回 「GF*BF」
粋のいい台湾を代表するスターが勢ぞろいし、しかも現在から過去を振り返るという最近のアジア映画で大ヒットを連発している同じ展開、さらにこの3月、台湾で起きた大学生による議場占拠事件を彷彿とさせる1990年の民主化要求運動も背景に描きこんだラブストーリーである。台湾での公開から1年9カ月。待ちに待った日本公開が迫る。
この作品のヒット要因は間違いなく過去を振り返り、さらに過去の中でも数年ごとに時代が移っていくという立体的な構成になっていることを挙げたい。
例えば2012年の現在を描く映画の導入部分。女子校の朝礼の時間に生徒たちが突然「短パンをはきたい、スカートいらない」と叫びながらスカートを脱ぎ捨てて放り投げる。その下からは“自由”の象徴としてキラキラと輝く水色の短パンが現れ女子生徒たちが飛び回る。それを扇動した姉妹の保護者として忠良(チョンリャン=ジョセフ・チャン)が呼び出されるが、複雑な家庭環境が原因と見る学校側に対し、彼は書類上は“兄”と認めつつ「でも実際は父なんです」とし、教育方針も間違っていないとキッパリ表明する。では双子の姉妹にとって、この男は一体誰なのか、観客は早くも過去のいきさつを知りたくなる。
台湾南部の高雄で生まれ育った高校生の美宝(メイバオ=グイ・ルンメイ)、心仁(シンレン=リディアン・ヴォーン)、そして忠良の3人は、戒厳令下にあった85年、自由を手にしようと発禁の雑誌を売ったり、仲間をあおって抗議運動を起こすなど、ささやかな抵抗を続けていた。
厳しい監視の目が光る当時にあっても青春を謳歌し、男勝りの美宝は忠良が好き、その美宝に近づく機会を心仁は伺い、さらに忠良は親友の心仁に「美宝はただの友だち」と打ち明ける。
やがて台北の大学に進んだ忠良と心仁、働き出した美宝の3人は民主化を求める学生の座り込みにも参加するなど激動の台湾社会を見つめながら27年間にわたって男2人、女1人による切なくも熱い三角関係を続けていく。
90年の「三月学運」と呼ばれる学生運動に実際に参加したことがあるというヤン・ヤーチェ監督の手になる脚本は細かいところまでリアルである。「一人で踊れば反抗、全員で踊れば民意」と運動への参加を促す言葉は戒厳令の締め付けに飽き飽きしている当時の学生気分をよく表しているのではないか。
こんな言葉も出てくる。座り込みの現場近くで屋台の店が並び始めると「ソーセージ屋を開けばよかった。民主と名付ければ売れる」、あるいは「朝目覚めたら台湾は変わっている。俺たちは自由だ」などのセリフは、運動の熱気を伝えると共に、理念先行や浮ついた風潮を冷静に描写している。
運動のリーダーの一人になった心仁に「警察が来たらお疲れ様というのよ。衝突はだめ」という美宝の声かけに至っては、もしかしてこの作品を見た学生たちが今年3月に立法院の議場に立てこもった「太陽花学運(ヒマワリ学生運動)」で参考にしたのではと思ってしまう。もちろん偶然かもしれないが、そう想像するのは楽しい。少なくとも忠良の娘たちには自分たちの世代の抵抗運動がDNAのように受け継がれているらしい。
27年間の三角関係を時に激しく、時に冷ややかに演じた3人の演技はいずれも素晴らしく、現時点での代表作と言っていいただろう。中でもグイ・ルンメイはどのシーンをとっても存在感にあふれ、かつ美しい。一昨年の台湾金馬奨で主演女優賞を受賞したのも当然である。
後半、社会人として台北でひっそり暮らす忠良に再会した美宝が彼のほおを渾身の力で平手打ちする迫力あるシーンは彼女の顔の変化とともに必見。男女を超えたいわば“戦友”同士の愛を堪能したい。
「GF*BF」は6月7日よりシネマート六本木、シネマート心斎橋ほか全国順次公開【紀平重成】
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「GF*BF」の公式サイト
http://www.pm-movie.com/gfbf/