第499回 「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編」

「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編」の一場面 (c)NY GALS FILMS
「続編を作るなんて、夢にも思わなかった」。こう話す監督自身があるいは一番驚いているかもしれない「毎日がアルツハイマー」の続編が、いよいよ公開される。

ヒューゴ・デ・ウァール博士(左)の説明に耳を傾ける関口祐加監督(c)NY GALS FILMS
認知症になった母親にカメラを向け、その喜怒哀楽をユーモアあふれるタッチで描いた前作の公開からわずか2年。急いで続編を作るのはなぜ?見所はどこ?と次々に疑問が湧いてくる。

認知症ケア・アカデミーのスタッフと盛り上がる関口監督(c)NY GALS FILMS
そこで一足先にあらすじを簡単に紹介すると、認知症のことを知れば知るほど老いた母親の最終章が気になって来た監督は、ケアの大切さを実感し、もっと本格的に学びたいとイギリスへ飛ぶ。そこで目の当たりにしたのが、イギリス最先端の医療介護施設である「認知症ケア・アカデミー」における理論と実践だ。
映画の中で「認知症ケア・アカデミー」施設長のヒューゴ・デ・ウァール博士は「認知症という病名は同じでも、必要なケアは一人ひとり全く異なります」と力説する。なぜならば病気がアルツハイマー病なのか脳血管性障害なのかという認知症の原因疾患だけでなく、既往歴など本人の健康状態や趣味、職歴といった個人史、性格、さらに周囲の人間関係など社会心理学的な要因まで一人ひとり違うため、その人らしさを尊重しその人の視点や立場に立って理解しないと適切なケアは引き出せないというのだ。

デイ・サービスではカルタの女王として君臨する母親の宏子さん(c)NY GALS FILMS
これが「パーソン・センタード・ケア」と呼ばれる考え方で、トム・キットウッド教授(故人)が提唱し、イギリスでは高齢者サービスを行う際の国家基準に採用されている。
映画の中でも、イギリスのケア・ホームで暮らす女性が夕方になると動揺するケースで、スタッフは上記5つのアプローチをもとにその人の背景を探り出し、彼女にふさわしい対応を見つけていく姿が感動的に紹介されている。
監督自身も参加した認知症ケア・アカデミーのコースでメアリー・オルドリッジ講師は「認知症介護は高度な技術なのです」と説明し、ヒューゴ・デ・ウァール博士も「ここでは簡単に抗精神病薬は使わない」と話す。
認知症の人を、世話をする側の都合ではなく、あくまでも本人の立場で見て行こうという姿勢を強く感じるお話である。
イギリス取材を終えた関口監督は「パーソン・センタード・ケアは母と向き合う力になります」と手ごたえを感じている。

やはり主役は宏子さん?この笑顔!(c)NY GALS FILMS
さて、前作「毎日がアルツハイマー」で主役を貫いた監督の母親、宏子さんは、続編の「毎アル2」でも元気いっぱい。引きこもりで行けなかったデイ・サービスに週3回行くまでになり、時には買い物も。遠慮はないが優しさに満ちた母子の会話は、相変わらず笑いのツボが一杯だ。
前作では認知症のイメージをがらりと変えて見せた監督が、そのテイストを維持しながらケアの神髄を自ら学び、じっくり見せようとする。
母親を介護する監督自身に大きな自信を持たせただけでなく、映画の基本コンセプトにも大きな影響を与えたヒューゴ・デ・ウァール博士は、次のようなメールで監督にエールを送る。
「この作品の持つユーモアと謙虚さは、多くの人の心を掴むことでしょう。認知症の人とそのご家族、認知症介護に関わる人、認知症に興味を持っているすべての人に広く見てほしいと思います」
「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編」は7月19日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。同館では8月3日まで土日祝日午後1時40分から、介護とケアを巡るトークイベントも【紀平重成】
【関連リンク】
「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編」の公式サイト
http://www.maiaru2.com/
銀幕閑話:第404回 この家族に元気をもらう。長編動画「毎日がアルツハイマー」
http://d.hatena.ne.jp/ginmaku-kanwa/20120615/1340425473