第523回 「チェイス!」
シルク・ドゥ・ソレイユを連想させるようなゴージャスなサーカスの主宰者が、天才トリックスターと呼ばれる自らの腕を駆使し、父を自殺に追いやった銀行に復讐するカーチェイスあり、オシャレなダンスありのアクション娯楽大作。追う警察との駆け引きそのものがサーカスのような劇場型で、二転三転する展開は最後まで息をつかせない。
アメリカのシカゴでオールロケを行い、インド本国だけでなくアメリカやイギリス、そして中国でもインド映画の興行収入記録を塗り替えたボリウッド映画だ。
シカゴのグレート・インディアン・サーカス団を率いるサーヒル(アーミル・カーン)は天才トリックスターとしても人気があり、とりわけマジックとダンスを融合させたショーは華麗にして演出も鮮やかで観客を夢中にさせていた。しかし、彼には腕利きの金庫破りというもう一つの顔があった。それは幼い時に父を破滅させたシカゴ・ウェスタン銀行に復讐することだった。
犯行に手を焼いた警察は、現場に残された手がかりから犯人はインド系と割り出し、インドからすご腕の刑事ジャイ(アビシェーク・バッチャン)と相棒のアリ(ウダイ・チョープラー)を招く。アーリア(カトリーナ・カイフ)という美しく最高のダンスを披露するパートナーを得たサーヒルは、なんと公演初日に人生最大のトリックで金庫破りを実行する。ここから始まるバイクによるアクロバティックで巧みなトリックを交えたカーチェイスが素晴らしい。
海外ロケを含めインド映画史上初めてという30億円の製作費をかけた作品が各国で受け入れられたのは、それだけインド映画らしさを薄め口に馴染みやすくしたからだろうか。しかしこの作品はインド映画の特徴である「踊りが多い」「151分と上映時間が長い」「復讐物語」と3拍子そろった限りなくインド映画的な作りだ。それでいて見たこともないインド映画に仕上がったのはなぜか。まさにそこが新しい魅力といえるだろう。
脚本も兼ねたヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ監督は「リーサル・ウェポン4」を手掛けたハリウッドの精鋭チームを召集し、地上だけでなく川や空中を駆け抜けるシカゴ市内のカーチェイスを実現させた。一方踊りの方も世界の先端を行くタップ集団を招き洗練されたダンスを作り上げた。さらに作品のテーマとして夢を見せる祝祭の場ともいうべきサーカスを全編に取り入れている。実際にはないものをあるように見せるのがサーカスとすれば、トリックに満ちた今作は実にサーカス的な作品と言えないだろうか。
この映画には二つの大きなダマシがある。一つは映画の構成、つまり脚本に大胆な仕掛けを施したダマシ、もう一つは俳優の演技力が無ければ不可能なダマシ。それはアーミル・カーンだからこそ可能と言っておこう。何しろ「きっと、うまくいく」では当時44歳だった彼が大学生役をやって違和感なくスクリーンにおさまったくらいだから。とはいえ、今作でのダマシはサスペンスの様相を帯びた後半の展開を左右する映画のミソのような部分だから、ダマされたと気付いた時、彼のとっておきの演技にゾクゾクとするのである。改めて彼の演技力に脱帽である。サーカスにふさわしい見事な筋肉を鍛え上げたのと同じように彼の努力を称賛したい。
このほかにも見所は多いが、やはりアーリア役のカトリーナ・カイフの躍動する美しさは必見だ。
「チェイス!」は12月5日より全国公開【紀平重成】
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「チェイス!」の公式サイト
http://chase-movie.jp/