第538回「逆転勝ち」のコン・ウェンイェン監督に聞く

インタビューに応じるコン・ウェンイェン監督(2015年3月15日、大阪・ABCホールで筆者撮影)
映画のロケ地巡りが好きだ。とりわけ美しい台湾。周りにも同好の士が多い。そこでまずコン・ウェンイェン監督には本作でもっとも撮影機会が多く吹き抜けの高い天井が印象的だったビリヤード場の撮影場所を聞いた。
すると監督は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの満面の笑みで、「あそこは政府の管轄地で、台北郊外にある日本植民地時代の工場跡です。ビールのふたを主に作っていました。廃業後はがらんどうのままだったのを交渉してロケ場所にしました」。
--天井から傘が付いた照明が整然と並んでいて、すごく開放的で、あんな所でビリヤードをやったら気持ちがいいだろうなと思うくらい素晴らしかったです。
「世界のどこに行ってもビリヤードをやるくらい大好きなんです。もう私の夢の中の理想の場所という感じです」
--ええ、愛が感じられました。友人たちにもぜひ教えたいので具体的な場所を聞かせてください。
「台北市の南港区です」
調べると、台北市東部の基隆河南に位置するIT産業が集中するエリアで、新興住宅地も東に増加中。MRT文湖線が開通し、近く台湾高速鉄道の新駅もできるという。
両親を事故で失い、音信不通だった叔父と暮らすことになった少女(ホアン・ペイジア)の物語。台湾の人気ロックバンド・メイデイのモンスター演じる叔父は、かつてビリヤードの名手だったがギャンブルですべてを失い、今や煙草と酒に浸るだけの日々を送っていた。

演技とは思えないホアン・ペイジアの真剣な目つき
--一昨年の大阪アジアン映画祭で「来るべき才能賞」を受賞したホアン・ペイジアさんをキャスティングした理由をお聞かせ下さい。
「彼女を起用したのは賞を取ったこととは関係ないんです。選んだのは彼女があの役柄にぴったりだったからです。あの役柄はティーンエージャーなのに彼女の実年齢は26・7歳。しかしティーンエージャーをやっても十分説得力があるという外見上の特徴とキャラクターの特徴の双方を持っていました。加えて非常に演技が素晴らしいということを前から感じていたので彼女を起用しました」
--かわいいけれども、気が強いんじゃないかな、というほどあの役にはまっていましたけれども、本当にそういう性格ですか?
「いや、登場人物の設定が気が強い女の子ということだっただけで、実際のホアン・ペイジアさんは非常にマイルドな感じの方です。でも彼女は役に自分を投入して全く本人の素とは違うような役柄をちゃんと作ってくれました。つまり私の要求に応えてくれて、かつ私のことを信頼してくれたということです」

上映前にあいさつするメイデイのモンスターこと、ウェン・シャンイー(2015年3月14日、大阪・シネ・リーブル梅田で筆者撮影)
--大変魅力的でした。そのホアン・ペイジアさんを含めて主役の3人がいましたね。そのキャラクターの組み合わせが良かったと思いますが、ポイントがあったのでしょうか。そうする理由が。
「まずあの3人を起用した理由ですが、脚本を書きながらどういうイメージの人物なのかということがだんだん自分の中にできてきます。そのイメージにふさわしい役者を探して行った結果、彼ら3人になったわけです。それ以外のキャラクターの配置ですが、こういう作品には悪人が必要なんですね。といっても、あまりにも典型的な、見るからに悪人みたいな人を起用するのはつまらない。外見は非常に穏やかで文化的素養もありそうな雰囲気、でも内心に非常にドス黒いものを抱えているような人を使いたいということで、決闘する相手の人を起用しています。それから若いクリーニング屋の男性ですけれども、彼はリウ・イーハオさんと言いますが、この3人の関係の中で非常にバランサー的な役柄が必要ということで、とがったものを見せるところもあれば、柔らかい優しい側面を見せ、また若い人に特に人気があるということもあって、彼を起用しています」

吹き抜けの高い天井で開放的なビリヤード場
--ロックバンド・メイデイ(五月天)のモンスターこと、ウェン・シャンイーさん。彼が一番性格が複雑で難しい役だったと思いますけれども、演技指導というのはあったのでしょうか。
「確かにあのキャラクターは非常に難しい役柄だと思います。まず彼は演技経験がないので、この撮影に入る前に彼とプライベートで脚本についていろいろな形でディスカッションを繰り返したということがあります。脚本をどういう風に読んで、あの人物をどういう風に読み解くのかということを、あるときはビリヤードをしながら、あるときは酒を飲みながら何回も彼とディスカッションして。その際に私の周辺にいる、実在するビリヤード好きが高じて賭博をして十数万、何百万元も失ったような人のエピソードを彼に話し、そういった人の人生を彼が想像しながらそれを模倣、コピーできるようにということをずっとやっていました。それができるのも彼が私のことを信頼してくれたというのが非常に大きかったと思います。それからもうひとつは演技の優秀な先生をつけまして、事前に訓練してもらいました」
--人生をなめてるくせにまだどこかで愛とか姪への教育的な指導とか、まだ未練が残っている、そんな感じが出ていて、それをきちんと演じているなと感じました。
「ありがとうございます」

少女たちに立ちはだかる男もビリヤードの達人
--昨日のQ&AでもCGを使っているというお話が出ました。このCGの使われ方は最初の構想と、編集を始める時点と、最後の作品で多少変わってきたんでしょうか。
「CGをどう使うかということは最初の構想からかなり変わってきました。最初はビリヤードシーンでかなりCGを多用することになるだろうと想定していました。ところが実際にやってもらうと役者さんがビリヤードのトレーニングに熱心に励んでくれて本当にうまくなったので、彼らが実際にやっている姿をかなり使えるという風になりました。それで結果的にはビリヤードの球が空中を飛んでいるのと、コップとコップの間を球が行き来するのはCGです。実際にはああいうことは無理なので。そういう描写のあるマンガがあって、観客をびっくりさせることができると思い、あのシーンをCGで作っています」
--おそらく映画を見た人はビリヤード場に飛んでいきたいぐらい好きになったと思います。ビリヤードの音も素晴らしい。耳にこびりつくぐらいいい音だったし、映像的にも素晴らしかった。監督は美術に興味があると聞いていますが、リアルだけれども、もう少しかわいく美しくというトーンに貫かれていたなと思いましたけれども、その点で工夫されていたのでしょうか。
「私はもともと美術系の学校を卒業し絵画を学んでいました。ですからビジュアル的な要求は非常に高いものを持っているわけです。そこでこの撮影にあたっては非常に優秀なカメラマンを起用していますし、優秀なアートディレクターも起用し、彼らと何回もディスカッションを重ねてこの映画にはどういったスタイルがふさわしいのかということを議論した結果ああいう風に作りました」
--あの吹き抜け2階の部屋なんて、もうそこでくつろぎたいなと思うぐらい素敵な部屋でしたね。ちょっと戻るんですけれども、そもそも映画を作ったのは2011年の「MAYDAY 3DNA(五月天追夢)」を撮ったことがきっかけだったんでしょうか。
「その中に挿入されているショートストーリーの部分が私の担当で、コンサートの部分は別の人が担当したんですね。ショートフィルムが3本入っているんですけれども、それを撮ったときに、まだちょっと撮り足りないな、まだ満足しない、もっとちゃんと長いものを作りたいな、と考えたということがあります」
--それが聞けて良かったです。
「加えてビリヤードのスタイルで撮ったという理由は、私自身ビリヤードが本当にプロ並みの腕前なので、ビリヤードの世界を撮りたかった。なぜかというと、この映画が初めての作品ですから。自分がそれをコントロールできる、しやすい素材だということがあります。そこからパワーが生まれると思いますので、ビリヤードで撮りたかったのです」
--ということは、次の作品は別の観点から選ぶということになりますね。
「そうですね。次回作は警察と悪人のジャンル映画にしたいと思っています」
--それを選んだ理由は? まだ早いかな?(笑)聞かせて下さい。
「次どうしようかなと思って、こういうアイディアがあるんだけれども、とプロデューサーに話したところ、それいいんじゃないか、ということで、私のスタイルにその映画がはまるのではないかと思いまして。ヤクザが登場するようなシナリオを書いているところです。その中で自分のスタイルというのをぜひ打ち出していきたいなと思っています」
--自分のスタイルというのはオシャレで……。
「そんな感じですね。そしてキャラクターに個性があるみたいな」
--ぜひとも早く見せていただきたいと思います。
【紀平重成】
【関連リンク】
「大阪アジアン映画祭」の公式サイト
http://www.oaff.jp/2015/ja/index.html