第561回「ハーバー・クライシス-都市壊滅-」
台湾映画史上空前の6億台湾ドル(約24億円)の制作費を投入した警察アクション。市民を恐怖に陥れるサイバーテロとの闘いは邦画の「天空の蜂」を思い起こさせるが、全ての原子力発電所の停止を要求する政治テロに対し、本作は犯人像がつかめないうちに都市の破壊行動がエスカレートする。はやりのCG(コンピューターグラフィックス)を駆使した迫力ある画面にハラハラドキドキするうちはいいが、東アジアの明日の姿かもしれないと考えると本当に怖くなる。
台湾の人気テレビドラマ「ブラック&ホワイト」の劇場版として製作された「ハーバー・クライシス 湾岸危機 Black & White Episode 1」(2012年)に続くシリーズ第2弾。中国の人気スター、ホアン・ボーを迎え入れた前作でも、ハイジャックされた飛行機から奇蹟の生還を果たすなど、スリル度は満点だったが、前作の倍近い6億台湾ドル(約24億円)を投入した今作はさらにスケールアップ。橋の倒壊や高速鉄道の脱線転覆、さらに超高層ビルの崩壊と被害の規模も膨れ上がる。
高層ビルが林立する台湾の大都市・海港市(ハーバー・シティ)で巨大な橋や鉄道、高速道路などの交通網が次々と爆破される事件が発生。正義感の強い南署の熱血刑事ウー・インション(マーク・チャオ)は、ちょっと生意気で頭脳明晰な東署の若手刑事チェン・チェン(ケニー・リン)と組み、性格も捜査手法も対照的なデコボココンビとして事件を追う。事あるごとに反発しあい危険な目にも逢うが、やがて互いに認め合う仲に変わっていく。
そんな中、軍から強奪された特殊ミサイルや、致死性の高い生物化学兵器が市民をターゲットにしていることが明らかになり、2人は「ナイトウォーカー」と呼ばれる武装組織をマークし始める。
展開を紹介すると、どこか遠くの国で起きた荒唐無稽なお話に聞こえてしまうが、挿入されるエピソードは逆にどこでも起こりうるリアルな話ばかりだ。サイバーテロやドローンを使った攻撃、処刑シーン、交通網の破壊、9.11同時多発テロを思わせる超高層ビルの崩壊、停電 、エレベーター内に閉じ込められる人……。現に起き、これからも起こるであろう映像が目の当たりにされるのである。
主人公たちの超人的な活躍を観客席で堪能する娯楽映画でありながら、映画の中で起きる出来事とは割り切れない自分を感じるのだ。安全な場所にいるつもりでも、いつ自分が巻き込まれるか分からないのが現代社会なのだから。案外、監督もそのスレスレの線を狙っているのかもしれない。
監督はテレビシリーズから一貫して手掛けているツァイ・ユエシュン。今作では悪の指揮官役で自ら出演しているが、エピソードがてんこ盛りで、展開を追うのに少々疲れる人が出るかもしれない。
ロケ地は発展著しい台湾第2の都市、高雄らしいが、いかにもこの様な事件が起きそうな活力と美しさを兼ね備えたたたずまいであることに驚かされる。
前作でやんちゃなイメージを振りまいて活躍した黒社会の元幹部役のホアン・ボーが今回も元気な姿を見せているのと、テレビシリーズで人気を博したチャン・チュンニンが南署の特捜鑑識官として元気で美しい姿を見せているのがうれしい。
「ハーバー・クライシス-都市壊滅-」は10月10日よりシネマート新宿ほか全国順次公開【紀平重成】
【関連リンク】
「ハーバー・クライシス-都市壊滅-」の公式サイト
http://harborcrisis-movie.net/