第570回 今年も中国インディペンデント映画祭

「凱里ブルース」の一場面
ほぼ隔年で年末に開催される恒例の「中国インディペンデント映画祭」が会場を渋谷から東中野に戻し今年も開催される。
検閲を通さない生々しい中国の今を伝える作品も勢ぞろいしているが、今回は新たに検閲を通した2作品が加わり、その違いを比較したり中国インディペンデント映画の最新の傾向を探求するという楽しみ方もできそう。カンヌで何度も上映されたことがあるワン・チャオ監督の特集4作品、ユー・グァンイー監督ら“北の三銃士”と呼ばれる3監督3作品など見ごたえのある計14作品がそろった。

「K」の一場面
同映画祭を主宰する中山大樹さんによると、この2、3年で検閲を通すかどうかの考え方で新しい世代の監督が育ってきたという。これまでインディペンデント映画の監督には異業種からの転身組が多く、それ故に作品のバラエティーも豊かで力強い作品も多かった。ところが最近は最初から映画学校で学び職業として映画を考える人が出てきた。メジャーを目指しながら、そのステップとしてインディペンデント作品を撮っている。
そんなタイプに属するのが「凱里ブルース」のビー・ガン監督と「冬」のシン・ジェン監督だ。前者は貴州省の凱里出身の監督が故郷をノスタルジックに描いた作品で、ロカルノ国際映画祭現代映画人部門の最優秀新人監督賞と台湾の金馬奨新人監督賞に輝いたばかり。40分の長回しなど新人監督らしからぬ映像は必見。また後者は冬の深山幽谷を舞台に白黒の画面、セリフ無しで動く水墨画的な作品。こちらも新人ながらモントリオール国際映画祭芸術貢献賞など各地の映画祭で賞を獲得している。

「トラップ・ストリート」の一場面
中山さんは「この二人はジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』のような検閲スレスレの作品は撮らない。新しい世代の目標になっている。インディペンデント作品のイメージを変えつつある」と評価する。
一方、中国での公開は全く見通せないという作品や、東京のここでしか見ることができない作品も上映される。ジャ・ジャンクー監督プロデュースの「K」はカフカの小説「城」を内モンゴルに場所を置き換えて撮った作品。時空を超えたような不思議感覚の映像は一見の価値がある。こちらは香港国際映画祭審査員賞、国際批評家連盟賞の2冠。

「シャドウデイズ」の一場面
グイ・ルンメイが迫真の演技で謎めいた殺人者になりきる「薄氷の殺人」をプロデュースしたウェン・イェン監督の「トラップ・ストリート」は仕事中の測量士が心を引かれた女性の消えた路地を巡るお話。そこは地図に載っていない道。女性を追って行くうちに測量士は抜き差しならない窮地に追い込まれる。サスペンスとラブストーリーをミックスしたエンターテインメント作品だが、政治的に敏感な問題をはらみ、映画祭でしか見ることはできないだろう。

「江城の夏」の一場面
ドキュメンタリー「ゴーストタウン」のチャオ・ダーヨン監督が、同作品と同じ場所で撮影した劇映画「シャドウデイズ」は美しい光景とミステリアスな展開のドラマが独特の印象を残す。ドキュメンタリー作品との比較もおもしろいだろう。
ワン・チャオ監督の「江城の夏」はカンヌ国際映画祭ある視点部門で最優秀作品賞を受賞した06年の作品。人気のある女優ティエン・ユェン(田原)が音信不通の息子を探す男の娘を演じる。田舎から40年ぶりに故郷の武漢に戻った父親が浦島太郎のような心境で町をさ迷い歩く姿が印象的。故郷喪失に揺れる人々の姿は世界共通と言っていいだろう。
今回は慶応など6大学との提携イベントが組まれ、映画祭が回数を重ね実績を積んできたことをうかがわせる内容になっている。詳細は下記の同映画祭公式サイトで。
中国インディペンデント映画祭は12月12日よりポレポレ東中野で開催。【紀平重成】
【関連リンク】
「中国インディペンデント映画祭」の公式サイト
http://cifft.net/