第589回「わたしの自由について」
2015年の夏に、戦争の匂いを嗅いで国会前を抗議の波で埋め尽くした学生団体「SEALDs」。半年に及ぶ活動は安全保障関連法案の可決とともに終わったかに見える。しかし、彼らは今さまざまな方法で自身の体験してきたことを伝えようとしている。このドキュメンタリーもその一つだ。声をからしてコールし、ひたすら歩き、ビラを配った。運動は一時の勝ち負けではない。伝え続けることが大事だというメッセージが映像からも迫ってくる。
監督は初長編作品「青の光線」が2011年の大阪アジアン映画祭に招待され14年に劇場公開された西原孝至監督。ネットで彼らがデモをしている動画を見て、そこにかつての自分や未来の子どもたちを思い浮かべたという。「自分の友人が声を挙げている」と。
彼らと接しているうちに監督は1人1人の魅力に引きつけられカメラを向けたいと思った。監督自身も今ここで伝えることの大切さにこだわった1人と言えるだろう。
映像はデモの当日、マイクや看板、ちらしに至るまで、いわゆるデモグッズを準備するところから、雨にぬれそびれながらもマイクを握りしめてコールする様子や、打ち合わせなど毎日の様子が描かれていく。その過程ではいろいろなことを学び、考える。たとえば中心メンバーの一人である奥田愛基さんは「自分だけでなく相手の自由も認める、それが本当の自由じゃないかな」と自由についての考えを深めていく。
大事なデモの日に挿入されるメンバーのスピーチには、彼らが自分で考え抜いた切ないほどにひたむきなものが多い。本間信和さんはこう訴える。
「自分が過去からある大きな啓発を享受していることに気が付かされました。それは何か。『平和』ですよ。お金でもなく、武力でもなく、この国のいちばんの宝は平和です。もちろんそれは、沖縄の多大な犠牲の上に成り立ったものでもあります。けれど曲がりなりにもこの国は戦争に参戦してはこなかった。それを支えていたのは、間違いなくこの国の憲法の文言と理念です」
そして、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と憲法の前文を読み上げながら「これは、おれの言葉なんだよ(中略)戦後日本の平和と民主主義の歩みを支えた、この言葉と意思、そして理念は、脈々と子から子へと受け継がれていたんですよ。そしてそれは、間違いなく、自分自身の中にも息づいている」と強調する。
もちろん運動は安保法案阻止に向けたものだが、半年に及ぶ活動の最中で、彼らがどんどん成長している様子も描く。
たとえばメンバーの芝田万奈さんが大きな集会に代表を送るよう政党事務所に電話するシーン。手紙を送ったのに返事がないため確認の電話を入れると、資料が見当たらないという。画面では「えーっ」という表情を一瞬浮かべながらも、「それでは改めて資料を送らせていただきます」とにこやかに応対するのだ。言葉づかいも応対のさばき方も即戦力で使えるスキルだ。
若者たちが考え行動する姿を見て感動するシーンは多いが、中でも終戦記念日前日の集会で長棟はなみさんが行った人生で初めてというスピーチは、映画のクライマックスを見ているかのように胸に迫った。
広島に近い山口県出身で、8月6日の原爆投下の日にサイレンの音とともに母親と手を合わせた思い出から説き起こしながら、憲法と平和の関係を語る。
「私が受けた教育は間違っていなかった。今ここで声を挙げる私を作りました」
「70年間、戦争をしなかった。他の国の人に対し、直接銃口を向けなかった。一人も殺さなかったという事実が、この国を守っている。そのことを誇りに思うべきです」
「他国から日本が直接攻撃されていないにもかかわらず、武力行使ができるというのは違うんじゃないでしょうか。なぜ他国の戦争に日本が参加するのでしょうか」
「何より、70年前の戦争で、多くの命が失われたことを忘れてはなりません。抑止力は機能しないでしょう。憎しみが憎しみを呼び、報復が報復を呼び、取り返しのつかない大きな事態になることを、忘れてはならないのです」
「どうか、誰かの言う、『綺麗ごと』『理想』をここで叫ばせてほしい。戦争はしたくない。人を殺したくない。殺されたくない。武力ではなく対話を。この言葉が綺麗ごとであってたまるか」
「明日は終戦から70年目の日です。終戦の前に亡くなったたくさんの命。終戦を迎えたにもかかわらず失われたたくさんの命。戦争を生きぬいて私たちに命を受け継いでくれた命。そして私たちの命があります」
「先の戦争は間違っていました。私は日本人として、何より人間として、戦争を繰り返してはならないという意思と責任を、たくさんの命から受け継いだのです」
「二度と繰り返してはならない。このために私は行動するのだ。嘘っぱちの言葉なんていりません。どうか国民ひとりひとりの命を心から考えてください。いや、一緒に考えてください」
「私は私の言葉を語ります。言葉が足らずとも、若くとも。私は、現政権と安全保障関連法案に、断固反対します」
オシャレで音楽のノリが良く、明るいSEALDsのメンバーだが、考え、訴える中身は火のように熱い自身の心の叫びだ。
奥田さんたちはSEALDsが参院選後に解散と言っている。ということは参院選に照準を合わせ大きな行動をとるということだろう。
運動は一時の勝ち負けではなく、どこまでも伝え続けることが大事だ。それでも選挙運動の行方は気になる。一度“共振”した思いは、またうねりとなって動き出すに違いない。
「わたしの自由について」は、アップリンクほか全国順次公開中。また7月上旬まで各地で自主上映会も開催中【紀平重成】
【関連リンク】
「わたしの自由について~SEALDs 2015~」の公式サイト
http://www.about-my-liberty.com/