第594回「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」

「ヒマラヤ〜地上8,000メートルの絆〜」の一場面 (C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
暑い季節にはクールなお話がピッタリ。でも、それがヒマラヤの、しかも8000メートル以上の、いわゆる「デスゾーン」と呼ばれる、真夏でも零下10℃以下の氷壁地帯のお話と聞いたら寒すぎるだろうか。
ヒマラヤの8000メートル級14峰登頂に成功した韓国の登山家オム・ホンギルとその仲間たちの過酷な体験を描いた、韓国では珍しい山岳ドラマだ。
引退した登山家オム・ホンギル(ファン・ジョンミン)は、カンチェジュンガやK2などヒマラヤ4座をともに登頂した最愛の後輩ムテク(チョンウ)が悪天候のため、エベレスト下山中に遭難死したことを知る。誰もが8750メートルでの遺体回収に尻込みする中、ホンギルはかつての仲間たちと「ヒューマン遠征隊」を結成する。それは凍りついた仲間の亡骸を探すためのチームで、登攀記録にも残らず、名誉とは無縁の過酷な遠征だった。

リーダーのホンギル(ファン・ジョンミン)は厳しい判断を迫られる (C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
ストーリーを追うだけで、吹雪、雪崩、立ちはだかるクレパスや氷壁といったシーンが次々と現れ、まるで現場に立ち会っているような臨場感を得られる作品は、それを見るだけで背筋がゾクゾクしてくることだろう。
主演のファン・ジョンミンは「国際市場で逢いましょう」「ベテラン」などを次々とヒットさせ、今もっとも信頼されている俳優と言っていいだろう。今作でも地元韓国では記録的興行成績をあげ、彼の存在感に負うところは大きいと言える。それに加えて、仲間や夢、生と死といった普遍的なテーマを濃密に取り込んだ脚本も功を奏している。
「パイレーツ」も手掛けたイ・ソクフン監督はこう言っている。「登頂の目的は頂上に向かうことではなく人に向かったもの。成功よりも重要な価値のある人と人との純粋な友情と義理人情を描きたかった」(同作品のプレス資料)

ホンギル(右)は後輩のムテク(チョンウ)を信頼する (C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
この作品はホンギルの実話を基にしているが、当時、登山界のスーパースター的存在だったホンギルと後輩ムテクの最悪の出会いから説き起こし、運命の皮肉で一度は見放した男が後年、チームに入り、ホンギルの最も信頼する右腕になっていく描写はよくできている。
このペアでカンチェジュンガ、K2、シシャパンマ、エベレストの8000メートル級の4座を制覇したムテクは、引退したホンギルに「兄貴、俺が足になります」とまで言い、体調が十分ではないホンギルの現役復帰を迫るのだ。その信頼感は、先輩後輩の間柄以上の固い絆で結ばれていたといえよう。

8000メートルを超えるヒマラヤは一歩間違えれば奈落の底だ (C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
もしかすると、山というのは平地では起こりえない特別な感情を生み、“奇跡”を演出する空気とでもいうものがあるのだろうか。とりわけヒマラヤでは。
ホンギルの意思でヒューマン遠征隊が提案された時、一度は参加を断わったメンバーらが翻意していく場面は、「少林サッカー」で人生に負けた中年男たちが友情や夢を選択し再びチームに合流していく場面と重なる部分が多い。実際、人生は山あり谷ありだが、人は映画の中にもそんな共感できる場面を求めているのかもしれない。

天候の回復を待つ一行 (C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
個人的にはホン・サンス作品の常連であるチョン・ユミが後輩のムテクの妻役で強気と健気なところをタップリ見せているのがうれしい。彼女の魅力をまた発見したような思いである。
さあ、涼しい映画館へ、クールな作品を求めてGo!?
「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」は7月30日よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開【紀平重成】
【関連リンク】
「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」の公式サイト
http://himalayas-movie.jp/