第596回「ミス・ワイフ」
美人で高給取りの独身敏腕弁護士が交通事故で意識不明の重体に陥る。だが天国の手違いで、夫と2人の子供をもつ平凡な主婦に入れ替わり、180度真逆の人生を歩み始めるというチョッピリ泣かせるラブコメディだ。
勝訴率100%という腕利きの弁護士ヨヌ(オム・ジョンファ)は念願のニューヨーク本社勤務の辞令が下りる直前、不慮の交通事故に遭う。生死の境をさまようヨヌの前にイ
所長(キム・サンホ)が現れ、一月だけ他人の人生を生きれば、契約満了時に生き返らせてあげると提案される。その提案に飛び付き、目を覚ますと……。
なんと反抗的な姉と幼稚園の送り迎えに手がかかる小さな弟の2人の子持ちで、炊事に洗濯、買い物に追われる主婦の戦争のような日々。さらに町内の主婦連中となんとか調子を合わせないといけない井戸端会議に、紙袋折りの内職まで。自分の信条とは真反対の生活に動揺する。
イ所長との約束で家族に身分を明かすことを厳禁されたヨヌは気を取り直し、妻であり母でもある主婦業に専念し始めるが、敏腕弁護士の本性までは捨てきれず、たびたび夫ソンファン(ソン・スンホン)の上司をやり込めては怒らせてしまう。夫と子供たちは、なぜか分からないままヨヌの変化に振り回される。
人が入れ替わるお話といえば、同じ韓国映画に「怪しい彼女」がある。孫もいる高齢の女性が、写真館で記念撮影をするうちに20歳の自分に入れ替わってしまい、2度目の青春を満喫するというストーリーは人気を呼び、中国やベトナム、さらには日本でもリメークされ、話題を集めた。
「怪しい彼女」は、ヒロインが老いた本来の自分より若いいまの方が素敵だと思っていて、このまま若さを楽しもうという気になっているのに対し、本作の主人公は努力で築き上げたキャリアウーマンとしての地位に誇りを持ち、許されるものなら生き返って元の仕事を続けたいと考えている。境遇の変化に驚くという点は共通しているものの、「老いより若さを」、あるいは「たいくつな主婦より能力を生かせる仕事を」と目指す方向は違っている。
もっとも見方を変えれば、抜け出したいと思っている現状も悪いばかりではない。老いには経験の豊かさというプラス面があるし、体が衰えたからこそ、若さの力やありがたさを理解することができる。主婦の生活は同じことの繰り返しのようで、安定性があり、やり様によっては創意工夫も可能だ。また家族の大切さを感じられることも多いかもしれない。そして確かに本作では、あれほど疎ましかった家族の一人ひとりが逆に愛おしくなっていくのだ。
そして最後に大きな決断を下さざるを得ない所も良く似ている。それが泣かせ所でもあるので、身につまされ同情してしまう。そんな感情を最大限にくすぐることができるかどうか、それが監督の腕の見せ所と言えよう。
ヒロインのオム・ジョンファはラブコメクイーンの異名を持つ人気女優だが、その名にふさわしい熱演で観客を笑わせ、しんみりさせることだろう。
その彼女から「無駄にハンサムな地方公務員」と辛辣な言葉を浴びせられる相手役のソンファンをソン・スンホンは自然体で演じている。妻ヨヌの無理難題な要求に何とか折り合いをつけ、家族を守ろうと努力するひたむきな姿は、ソン・スンホンの新しい魅力としてファンの心をぐっと掴むかもしれない。
「自分は天涯孤独の身」だからと仕事で頑張ってきた彼女が実は大いに愛されていた事を知るエピソードがラストに用意される。小さなどんでん返しと合わせ、お楽しみいただきたい。
「ミス・ワイフ」は8月13日よりシネマート新宿ほか全国順次公開【紀平重成】
【関連リンク】
「ミス・ワイフ」の公式サイト
http://misswife-movie.com/