第603回「チャーリー ~Charlie~」

「チャーリー ~Charlie~」の一場面。テッサ(パールワティ)は、借りたアパートの前の住人を探す旅に出る
この秋はインド映画祭の13本を始め、アーミル・カーン主演の話題作「pk」も公開が予定され、インド映画ファンにとっては願ってもない季節となりそうだ。その先陣を務めるのが南インドのケーララ州の公用語マラヤーラム語で作られた本作である。
いわゆる、歌と踊りが、ど迫力で迫るボリウッド映画に病みつきになった人はもちろん、そうでない人も、本作の魅力にハマるのではないか。おとぎ話のような展開なのに荒唐無稽とは言わせない心地良さに満ち、主役から脇役まで造形が際立つ役どころとキャスティングの妙。さらに力強い音楽と南インドの心洗われる風景の連続は、思わず「今年のベストワン」と叫ぶ人もいるだろう。
作品の基本的な構造は、タイ映画の「すれ違いのダイアリーズ」に似ているところがある。現状に満足できない主人公が心機一転、新しい場所で生活を始めるが、部屋に残された前の住人の遺留品を通じて、まだ見ぬ相手に興味を持ち、行方を追っていくという展開。そんな感情を沸き起こさせる小道具として「すれ違いのダイアリーズ」は日記帳が、そして本作では手描きの漫画が使われる。どちらも、その先が読みたくなり、書き(描き)手についてのイメージをどんどん膨らませていくところまでそっくりだ。
若いアーティストのテッサ(パールワティ)は南インドの大都市バンガロールで自由を謳歌していたが、親の決めた縁談に反発して家を飛び出す。ヒッチハイクをしながらたどり着いた港町コーチンの古いアパートは、前の住人チャーリー(ドゥルカル・サルマーン)の持ち物があふれかえっていた。

チャーリーを探す旅は自分探しの旅でもあった
奇妙なオブジェなどの間から偶然見つけた手描きの漫画はそのボロ家を舞台に進行し、テッサはグイグイと引きつけられていくが、肝心なところの結末は描かれていなかった。物語の続きを知りたくて、テッサは彼の写真を手がかりに、チャーリー探しの旅に出る。
彼を探すため様々な人に出会ううちに、テッサの心は少しずつ変わっていく。頑ななだけだったのが、器が広がり、その一方で自分の心に素直であろうとする。それは結局のところ自分探しの旅とも言えるかもしれない。
結婚は家同士のもので、女性は家にいるもの。そんな価値観が根強いインドにおいて、テッサの人物像はかなり現代的だ。「女神は二度微笑む」で世界をアッといわせたインド映画は、本作でも行動力と意外性を併せ持つまた新たな女性像を作り上げたようである。
ラストの鳥肌が立つようなシーンが圧巻。お祭りの大群衆を前に、マジックも堪能なチャーリーがテッサに見せる謎解きの一手。人生は最初から決まっている? いや、不思議なことが起きるからこそ自分を信じよう、ということなのか。映像と音楽が最大限に盛り上がる一瞬でもある。

ようやく見つけた男チャーリー(ドゥルカル・サルマーン)に近づくテッサ
ともあれ、インド映画にはラストが見逃せない作品が多い。「きっと、うまくいく」「pk」「女神は二度微笑む」「チェイス!」、そして本作である。もちろん作り手はここで勝負し、余韻を持たせようと知恵を絞るのだが、ざっと挙げるだけですぐに思い浮かぶほど、この手の予想を裏切る結末におののく作品は多い。これからも大いに期待できそうである。
本作は5月に2日間限定の特別上映会で満席となり、一般公開を求めるファンの声を受けてのロードショー公開。
「チャーリー~Charlie~」は10月1日よりキネカ大森、同29日より塚口サンサン劇場にて公開【紀平重成】
【関連リンク】
「チャーリー~Charlie~」の公式サイト
http://charlie-japan.com/