第628回 「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。」
ちょっぴり長いタイトルだが、ほぼ内容を言い尽くしている。ではもう作品を見なくてもいい? いえ、青春映画としては、その弾けっぷりが心地よく、お勧めです。
Facebookを通じて日本人男性と台湾人女性が出会い国際結婚した実話をもとに谷内田彰久監督が映画化した。
日本のドラマやアニメの大ファンで、大学でも日本語を専攻している台湾のリン(ジエン・マンシュー)。東日本大震災の被害に心を痛め、Facebookで応援メッセージを送っていたある日、彼女のところに、モギという名の日本人青年(中野裕太)からメッセージが届く。彼は、震災の復興支援で日本にとても友好的な台湾に興味を抱き、まだ見ぬリンに「ありがとう台湾」とお礼のメッセージを送ってきたのだ。やがてFacebook上でのやりとりが始まり、ゴールデンウィークにモギさんが他の仲間と訪台したことから、2人の心は、徐々に近づいていく。
相思相愛で一気に愛が深まるのかと思っていたが、それでは94分の上映時間が持たない。ちょっとした誤解から、2人はなかなか本音を打ち明けることができない。それはモギさんが恋愛におくてだからだろう。日本と台湾。離れた2人の間を一気に縮める機会を作ったのは、リンの強気とモギさんに対する「好き」という熱い思いだった。
谷内田監督が、この大事な場面をどちらもコンビニを使って演出しているのが洒落ている。小道具はスマホのLINE。相手に思いが伝わる言葉を素早く考えるのに、ここなら、行ったり来たり、立ち止まったとしても、誰も不思議がらず、集中して次の返事を考えることができる。また歩き回ることで、返事を待つ間にじりじりとせずに済む。2人のドキドキした思いが、どちらもコンビニという空間を舞台にすることで凝縮されるように見えるのだ。
コンビニの恋、あるいはLINEを使った恋というのが、いかにも今風である。しかし、文字を打つのがどんなに速くても、今のホットな気持ちを伝えるのにはもどかしい。それで、リンは焦れたように国際電話カードを店で買いモギに電話する。ここまで来れば、もう本音をぶつけるだけでいい。少々湿った生の声が伝わってくる。
誤解も解け、モギさんが台湾に再びやって来ると知って、あわてたのはリンである。その日はアルバイトの出番日でデートは無理。交代して欲しくて同僚に執拗に迫るが、返事は「なぜ、今日?」とつれない返事。身をよじるように「人生の中で一番大事なことがあるから」。リンのそう言い切ってしまえる切実感がいい。
再会を果たしエプロンを放り投げバイト先を飛び出すリンとモギさん。リンの願いに応えてあげたバイト仲間が笑いながら2人の乗ったバイクを追いかける。ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」が印象的に流れる「恋する惑星」のように青春のはじける感じがすごくいい。今更と思いつつ、でも青春をもう1回やってもいいかなと思わせる幸福感と高揚感がうまく出ている。
気になるのは、映画のタイトルにも出てくる鉄壁のママを、娘のリンやモギさんがどう説得するかである。モギさんの決め台詞と、それに対するママの絶叫は果たして……。
日台友好を願うファンの期待に応えるように、双方の有名観光地が次々に出てくる。日本のロケ地は広島(厳島神社)、大阪(通天閣)、奈良(奈良公園)、浅草(雷門)、鎌倉(江の島)など。台湾は監督が「台湾のハワイのよう」と親しみを込めて呼ぶ東海岸の福隆をはじめ、九分、夜市で有名な士林、寧夏、台北のMRT文湖線などおなじみの場所が多い。
当初はママ役だったという人気女優リン・メイシューが、モギさんが台湾に行くきっかけを作った日本在住の飲み屋のママをコミカルに演じているほか、蛭子能収がモギさんのパパ役で、いかにもそれらしく出ているのも話題になっている。
また、台湾に行きたくなる一作。
「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。」は5月27日より新宿シネマカリテほか全国順次公開【紀平重成】
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