第629回 「Viva!公務員」「日々と雲行き」
どこの国にもコメディという映画ジャンルがあり、熱心なファンを抱え量産もされているが、イタリアで「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を超えて興行記録を更新したコメディ作品が「Viva!公務員」と聞けば、ちょっと見たくなる。その感想は期待以上であり、また様々なことを考えさせる作品だった。
いま日本でも、必要以上に忖度する公務員がいるかと思えば、事実を突きつけられても知らぬ存ぜぬと硬い表情のまま否定し続ける公務員もいる。ところが同じ公務員でもイタリアとなると、自由度は増し……。
身の回りの世話を母親に甘え、独身生活を謳歌するケッコ(ケッコ・ザローネ)は、子どものころからの夢である公務員になって終身雇用の安定した人生を送ろうと、15年前に就職した。しかし政府の方針で公務員削減の対象になってしまう。だが、そこからがケッコ流。リストラの担当者はあの手この手で本人が陥落しそうな僻地への異動を命じ続けるが、公務員の職にしがみつきたいケッコは退職を拒む。業を煮やした担当者が最後の切り札として突きつけたのが、北極圏の厳寒の離島(ノルウェー領)にある観測所だった。
首はつながったものの、大好きなママの料理も食べられず、意気消沈しかかっていると、美人の研究員ヴァレリア(エレオノーラ・ジョヴァナルディ)と恋仲に。それぞれ父親の違う彼女の3人の子どもも引き取るというハプニングに戸惑いながら、これも悪くないと一緒に暮らし始める。しかし、公務員の仕事と特権を手放さないケッコは、ついに彼女にも見放され、ピンチに追い込まれる。
主演のケッコ・ザローネはイタリアで人気の喜劇俳優で、今作もジェンナー・ヌンツィアンテ監督との共同脚本。さらに音楽も担当しているので、実力派のマルチタレントということになる。観客にはおなじみの俳優なので、彼が出ていれば笑いモードになりやすいという側面もありそう。そこに切れのいい脚本が加われば、映画館は笑いの渦となる。
イタリア人には「まず笑い、後で考える」という傾向があるそうだ。とことん笑った後は、「でも公務員って恵まれているよね」「そこまで特権を振りかざさなくてもいいのに」と思わないではいられない絶妙な仕掛けの脚本があるからこそ、映画もヒットし、庶民のガス抜きにもつながっているのだろう。なんだかうらやましい。
振り返れば、国会の答弁に笑うことができない日本人にこそ、皮肉がタップリ込められたコメディが必要と言えないだろうか。
「Viva!公務員」と同時に、特集上映「Viva!イタリア vol.3」の中で上映される「日々と雲行き」についてもご紹介したい。
「ベニスで恋して」のシルビオ・ソルディーニ監督が、夫の失業で危機に陥った中年夫婦を描いた人間ドラマだ。
実業家の夫ミケーレ(アントニオ・アルバネーゼ)と豪邸で暮らすエルサ(マルゲリータ・ブイ)は、フレスコ画の学位取得を目指し研究生活を送っていた。ところが、夫が共同経営者に会社を乗っ取られてしまい、夫婦仲がおかしくなる。
2007年の作品なので車の形や人々のファッションがやや古めかしく感じるが、失業、女性の自立といったテーマはなお現実的で、古さを感じさせない。余裕がないのに見栄を張る夫、生活苦に働き出す妻。シリアスな場面が続くが、夫が仲良くなった職人に「誰でも能力はいくつかあるんです」「こんなうまいパスタならお店を出せます」と語らせるなど、監督の人びとを見つめる目線が温かい。
自尊心を失った夫に代わり仕事を増やし、一度は研究生活を諦めた妻は、ある日修復の終わったフレスコ画を見つめる。床に寝転がって天井の絵を見つめたまま動かない妻を、夫が優しく見守る。一人娘ともぎくしゃくしていた家族が再びつながり始めるのだろうか。
演出に加え、夫婦役の二人の演技は一見の価値がある。
「Viva!公務員」と「日々と雲行き」さらに「マフィアは夏にしか殺らない」を合わせた3作品による『特集上映「Viva!イタリア vol.3」』
は5月27日より東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開【紀平重成】
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