第641回 「西遊記2~妖怪の逆襲~」

「西遊記2~妖怪の逆襲~」の一場面。孫悟空(手前中央)ら3人に引き寄せられるように妖怪が集まってくる
中国や日本で小説や漫画、映画、舞台とあらゆるメディアで繰り返し表現され続けている「西遊記」。2013年に中国国内で映画興行記録を大幅に更新するメガヒットとなった「西遊記~はじまりのはじまり~」の続編がいろいろな妖怪たちを引き連れて日本に再上陸する。
前作の「西遊記~はじまりのはじまり~」は若き玄奘が孫悟空や猪八戒、沙悟浄と出会う、いわば本編の前日譚だったのに対し、今作は3人を連れて天竺(インド)へ向かう三蔵法師の一行が、旅の途中で立ち寄った比丘国(びくこく)などで妖怪たちを退治する姿を前作同様豪快かつコミカルに描くアドベンチャー・ファンタジーだ。

長くつらい旅が続くが、三蔵法師(クリス・ウー)はいたって元気
とはいえ、分かりやすい勧善懲悪の世界が描かれているという訳ではない。最初に立ち寄った山中の一軒家は、外観は豪邸だが蜘蛛女が美女に化けて人間を食らうという恐ろしい館である。突如襲い掛かる妖怪たちを徹底してやっつける孫悟空に、三蔵法師は褒めるどころか逆に「乱暴すぎる」と叱責する。憤まんやるかたない孫悟空は三蔵法師を殺そうとまで思いつめるが、手も足も出ない。ここから孫悟空に三蔵法師への葛藤が生まれる。

妖怪退治に孫悟空のパワーは欠かせない
続く比丘国では歓待されたものの、無邪気すぎる国王に振り回され、三蔵法師の控えめな対応はかえって機嫌を損ねてしまう。そこで孫悟空に助けを求めたところ、ますます事態を悪化させて、抜き差しならない状況に追い込まれる。
三蔵法師にも孫悟空にも善意だけでなく妬む心があり、いつも心をコントロールできるわけではない。また国王側も成り行き上、手を出さざるを得なかったという側面もあるかもしれない。
「はじまりのはじまり」と併せて「西遊記」シリーズを見ると、どちらも教訓となるエピソードが散りばめられた三蔵法師の成長物語と見ることができるだろう。今作の場合は比丘国の国王に対し控えめすぎたり、国王の問いに対し返答が遅れたことが失敗につながった。修行の身だからと格好をつけ、国王から勧められた小善(リン・ユン)を連れて行くのを一旦は断り、次の日になって「やはり連れて行きたい」と態度を変えるなど優柔不断なところも影響した。

蜘蛛女の繰り出す糸にがんじがらめになる三蔵法師
前作との共通点にはもう一つ、どちらもラブストーリーが核になっていることが挙げられる。スー・チー演じる段が再三にわたって玄奘を助け、コミカルにラブコールを送る前作に対し、今作では彼女に代わって「人魚姫」で注目されたリン・ユン演じる小善が三蔵法師の心を射止めようとする。ベテランと新人。演技力を比較しては可哀そうだが、それでも光るものを感じるのは才能ゆえんであろうか。
そのスー・チーを除くと、前作の主役はそっくり入れ替わり、三蔵法師はウェン・ジャンからクリス・ウーに、また孫悟空はホアン・ボーからケニー・リンにそれぞれ入れ替わっている。

次々と困難が押し寄せ、三蔵法師もいらだちを見せる
前作でメガホンを取ったチャウ・シンチー監督は今作では製作と脚本を手掛け、監督はツイ・ハーク監督に代わっている。個性の違いはキャスティングにも影響していることだろう。「はじまりのはじまり」のオリジナルキャラクターとしてスー・チー演じる段に奔放な演技をさせたり、キーパーソンの孫悟空には最も似つかわしくなさそう?なホアン・ボーを当て、かえって新鮮な味を引き出すなどチャウ・シンチーならではの味付けに成功している。
一方、ツイ・ハーク監督は、どちらかと言えばいわゆる西遊記物の定番に沿うオーソドックスなキャスティングと演出を心がけ、安心して見たいというファン層の心をとらえるのではないだろうか。
そんなツイ・ハーク監督もファンサービスを忘れてはいない。エンドロールにもお楽しみがあるので、台湾や香港の観客のように慌てて席を立たないよう心掛けたい。
西遊記の「2」があれば「3」もある?と期待するのは当然で、さらに、このシリーズにチャウ・シンチーの監督復帰はあるのか、他の人なら誰がいい?と考えるのは楽しい。期待を込めて見守りたい。
「西遊記2~妖怪の逆襲~」は9月8日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開【紀平重成】
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