第654回 「To Singapore, with Love」(星国恋)
なかなか見る機会がないと思われる、あるシンガポール映画をご紹介したい。原題の漢字表記はメルヘンチックなタイトルだが、恋は恋でもさまざまな理由から故国を離れたまま戻ることができない人たちの望郷の思いを込めたものだ。母国を追われ、あるいは危険を避けて亡命する人たちは世界各国で後を絶たない。他人事と思わず耳を傾ける価値は十分にある。いつか自分のこととならないように。
上映会は1月20日、立教大学を会場に、日本マレーシア学会(JAMS)関東地区研究会の主催で行われる。「シンガポールの光と影」(インターブックス)の著書がある盛田茂さんがモデレーターを務め、上映後に解説する。
この作品は1960~70年代に「治安維持法」から逃れ、出国したまま一度も帰国を許されず、現在もタイ南部やロンドンで暮らす亡命者たちに監督自らインタビューしたドキュメンタリー。長い人は50年間も国外生活を送り、故国への思いは痛切だ。
欧米各国や香港、台湾、韓国等では既に上映されていて、タン監督と以前から交流のある盛田さんが昨年7月、「本作の上映会を日本で開催したい」とお願いしたところ、快諾してくれたという。
13年に制作された本作は国内上映・配給禁止措置を14年に受けている。海外での上映までは禁止されていないが、地味な作品だけに一般公開は難しいと考え、大学、研究機関での上映会に切り替えた。自費で日本語字幕も付けたという。
盛田さんは「惚れ込んだ弱みですね」といいつつ、タン監督の製作にかける情熱、強い問題意識に少しでも協力しようとDVD販売も引き受けた。
シンガポールは豊かな国というイメージが強いが、盛田さんの著書のタイトルにもあるように、光だけでなく影の部分にも目を向けることがいま求められているということだろう。
それは同国に限らず、今や世界共通の課題だ。都合の悪い歴史を隠し、同じ価値観への同調圧力は高まるばかり。宗教や民族、文化、イデオロギーの違いを越えて、多様な社会を認め合う寛容な心を育む場が少しでも増えることを願わずにはいられない。【紀平重成】
上映会の詳細は下記の通り。
・シンガポール映画「To Singapore, with Love」(タン・ピンピン監督・2013年)
・日時:2018年1月20日(土)14時~17時
・場所:立教大学池袋キャンパス14号館5階D501
・主催:日本マレーシア学会(JAMS)関東地区研究会
・会員以外の方も参加自由(無料、予約の必要なし)
・モデレーター:盛田 茂(立教大学アジア地域研究所)
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