第664回 「ザ・キング」
どこの世界にもある権力闘争を、1980年から2010年までの韓国現代史に重ね合わせ、ドキュメンタリーのように描いた犯罪娯楽大作。カネと権力への欲望から大統領選で動く検事たちを主人公にしたところがミソで、チョン・ドゥファンら歴代大統領から最近のセウォル号沈没事故まで、記憶にある映像が挿入されているので、駆け引きに明け暮れる眼前のドラマがまるで現実に起きているかのように生々しく迫って来る。
ある日、検事が暴力ではなく権力で悪を制する姿を見た貧乏青年パク・テス(チョ・インソン)は、検事こそ天職と考えケンカを封印。猛勉強の末に検事となる。地方都市で仕事に追われていたテスは許しがたい訴訟案件に正義感を募らせ、厳罰を求める。それがソウル中央地検のエリート部長ガンシク(チョン・ウソン)の知るところとなり、妥協を条件に仲間入りを誘われる。
「プライドを捨てろ」「権力に寄り添え」。繰り返される甘い言葉に抗しきれず、テスは悪の魅力に染まっていく。検事長の地位を狙うガンシクとその一派は大統領選挙を利用して摘発を繰り返し、権力と富をつかんでいく。しかし、勝ちっぱなしの一派に内部崩壊の兆しが現われ始め、テスも巻き込まれていく。
検察が時の権力と結託して政治的に動くのか、あるいは検察内部の権力闘争が政界の暗闘とリンクするのかという判断は観客にお任せするとして、その絶頂期に政敵を打ち倒して歓喜の雄叫びをあげながら酔いしれるガンシク一派の踊りがすごい。ボリウッド式の本家本元の踊りをそっくりいただいた、まさに韓流「バブリーダンス」。気分を表すにはまさにこんな感じだとわからないでもないが、弾けっぷりも鮮やかなインド映画とは違って、どこか生々しい。バブルと一緒で、危うさが漂うのだ。しかも腐臭まで撒き散らせて。いや、それを狙ったとすれば、最高にリアルなダンスシーンと言えなくはない。
絶頂もあれば、いつか転落もあるのは、昨今の日本の政治状況とよく似ている。娯楽映画とはいえ、世の法則に忠実な展開は、庶民の喝采を浴びることだろう。だが、さらなる巻き返しが起きるのも世の常とは言えまいか。テスは、そしてガンシクは……。
情報操作からイメージ戦略、パワハラまで駆使して政敵を潰していく。このやり口は、我が国の安倍一強政治にまい進する官邸と、そこにおもねる官僚の忖度(そんたく)という構図とどこか似ていないかだろうか。競って手に入れた権力を維持するため、無理に無理を重ね権力は歪んでいく。本作はクライムエンターテインメントを装いながら、実は現実世界を描いているのである。だから面白いし、切なくもなる。現実が変わらない限り、この種の作品も姿を変えて量産されていくことだろう。
韓流スターのファンなら、8年ぶりスクリーン復帰のチョ・インソンやチョン・ウソンが弾けたように踊り尽くすダンスシーンは必見。もちろん、甘いマスクをかなぐり捨てて悪役に徹する姿も見逃せない。
「観相師 かんそうし」のハン・ジェリム監督作品。
「ザ・キング」はシネマート新宿ほか全国順次公開中【紀平重成】
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