第673回 「スウィンダラーズ」
韓国の人気俳優ヒョンビンを主演に迎え、詐欺師を捕まえるために別の詐欺師を送り出すというクライムドラマである。一見、ありそうもない展開だが、韓国で実際に起きたマルチ商法詐欺事件をヒントに、チャン・チャンウォン監督が脚本を書き映画化した。
ある日、大物詐欺師チャン・ドゥチルが死亡したというニュースが流れる。しかし、同じ詐欺でも詐欺師だけ騙すことを自分の流儀にしているジソン(ヒョンビン)はドゥチルはまだ生きていると確信し、事件を担当していたパク・ヒス検事(ユ・ジテ)にドゥチルを捜し出し、捕まえようと持ちかける。パク検事は裏で使っていたプロの詐欺師3人組を呼び出し、チームを組んで、ドゥチルの腹心クァク・スンゴンに接近するための作戦を立て始める。しかし、ジソンと詐欺師たちは、パク検事がチャン・ドゥチル逮捕ではなく自身の出世のために別の作戦を計画していることに気づく。ジソンとパク検事、詐欺師たちの三つ巴の騙し合いが始まる。
犯罪映画にもいろいろあって、刺激性の強いバイオレンスやサスペンスを売りにしたり、謎解きや裏切りによる形勢逆転、そして近年はITを駆使したハイテク捜査も見どころの一つになっている。本作もそんな一面があり、盗撮映像を多数のモニターに映し出し、同時進行の犯罪を確認しながら、その先を予測して次の行動に移すスピード捜査ぶりも人気を集めている。ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」のように足で稼いで犯人に迫るといった捜査積み上げ型の作品は、たとえ犯罪者の心の闇と捜査陣の執念が交錯する魅力的な心理ドラマに仕上がっていても、テンポの良さを求められる現在の映画界ではまどろっこしいとみられているのだろうか。
本作の場合は騙しの限りを尽くす3者の攻守所を変えての攻防がポイントなので、それをここで公表するわけにはいかないが、最後の最後でどんでん返しが用意されているとだけはお話しておこう。もちろんその伏線も周到に張り巡らされている。
騙しあいの作品の楽しみはその設定もさることながら、どんな表情で騙していくのか、あるいは騙されるときの表情はどうかという演技力も見逃せない要素。その点では個性派の芸達者が勢ぞろいした本作のキャスティングは申し分なかったと言えるだろう。
恋愛ものの出演が多く、王様や刑事なども演じてきたヒョンビンに最も似つかわしくないのが詐欺師の役とも言えそうだが、彼が演じてみると明るくさわやかで見た目の信頼度は抜群。むしろ彼こそ最も大事な詐欺師的要素を持ち合わせていることに気がつかされる。
一方、「オールド・ボーイ」で復讐に燃えた男を怪演したユ・ジテが本作では表向きのエリート検事の取り澄ました表情をかなぐり捨て秘めた野望をむき出しにする場面が印象的。どんな役でもその役になりきっていて、非の打ちどころがない。彼も詐欺師的要素の持ち主だ。
「ザ・キング」や「インサイダーズ/内部者たち」で脇役ながら存在感を発揮したペ・ソンウ。本作では詐欺師ジソンとパク検事の間に入って双方から信頼を得る詐欺師コ・ソクトンという難しい役どころ。物語の進展とともに立場もめまぐるしく変わらざるを得ない中でも目つきや話し方を微妙に変えていく姿はまさにカメレオン的対応と感心する。
チームでは唯一の女性チュンジャ(ナナ)は若く美貌の持ち主。どんな相手でも狙ったら必ず惑わせてしまうという自信を持ちメンバーには欠かせない存在。本作でも明るく鮮やかにターゲットから貴重な情報を盗み出す。K-POPガールズグループ AFTERSCHOOLのメンバーで映画は初出演。今からこんなに騙し上手では将来が恐ろしい?
そのチュンジャと騙しあうのが希代の詐欺師チャン・ドゥチルの右腕ともいわれるクァク・スンゴン(パク・ソンウン)。能面のように表情を変えない彼の演技は「新らしき世界」や「V.I.P 修羅の獣たち」でいかんなく発揮されてきたが、本作では人間味も加味し、新しい魅力を見せている。世紀の詐欺師から信頼される男とは果たして……。
ドキュメンタリーは別として、映画は様々なテクニックを使うことによってあたかもその映像が本当のことのように見せる芸術と言われてきた。もともと映画は制作者がいい意味で観客を騙すことで観客に楽しんでもらい、それを自らも楽しんできたのである。登場人物たちが騙し騙されることを互いに競い合うという本作はまさに映画にふさわしいテーマだと言えるだろう。みなさんも登場人物と一緒に最後まで騙されてみてはいかがだろうか。
「スウィンダラーズ」は7月7日よりシネマート新宿ほか全国順次公開
【紀平重成】
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