第677回 「7号室」
韓国にはソン・ガンホ(「タクシー運転手 約束は海を越えて」 )やチェ・ミンシク(「オールド・ボーイ」)、ソル・ギョング(「オアシス」)といった超ド級の演技派俳優がいるが、その3人に勝るとも劣らない演技力と人気を兼ね備えているのがシン・ハギュンだ。
その彼が本作でアイドルグループEXOのD.O.(ディオ)と初共演。個室DVD店の一部屋を舞台に、何としても密室にしておきたい社長と、絶対に開けなくてはならない店員のそれぞれの事情ゆえに始まった命をかけての攻防をイ・ヨンスン監督が手に汗握るサスペンス作品に仕上げている。
赤字続きで借金まみれの個室DVD店を経営するドゥシク(シン・ハギュン)は店員への給料も未払いのまま。給料をもらえないアルバイト店員のテジョン(ディオ)が、多額の報酬を支払うという麻薬密売人の話に飛びつき、預かったブツを店内の「7号室」に無断で隠したことから部屋は秘密の小部屋として妙な磁力を持ち始める。
一方、店の売却で急場をしのぎたいドゥシクは、もう一人アルバイトを雇い入れ大繁盛している店であることを装う。それが効を奏し店の購入を希望する相手が現れる。だが思いもかけず新人のバイト店員が店で不慮の死を遂げてしまう。パニックに陥ったドゥシクは死体を同じ「7号室」に隠し、誰も開けられないようドアに施錠してしまう。密売人の指示でブツを取りに戻った先輩店員のテジョンは、隠し場所に入れず大あわて。命を狙われ始めドアを開けるしかないテジョンと開けられてはまずい社長が「7号室」の開閉をめぐり、壮絶な肉弾戦を繰り広げる。
イ・ヨンスン監督が取り上げるのは徹底して下流社会の人たちだ。ドゥシクの苦境は離婚してすべてを失ったことがそもそもの始まり。起死回生を狙って10年前から始め、街一番の品ぞろえが自慢だった個室DVD店も時代の波から取り残され、家賃は滞納、バイトへの給料は未払いで、頼りにしている姉夫婦からの借金も返せないまま。夜間の運転代行ドライバーの仕事で急場をしのいでいる状態だ。
アルバイトのテジョンはミュージシャンになる夢を抱えながら、学費を工面するため闇金融に頼ったのがつまずきの始まり。ノートパソコンを質草に出し、わずかな現金で暮らす綱渡りの生活。彼らの姿はまじめに働いても貧困から抜け出せない底辺の人たちの生活と重なる。
その二人が死闘を展開する「7号室」は下層社会から抜け出すことが唯一可能のように見える、いわば生き残りをかけて闘う「リング」となる。まばゆいスポットライトに照らされた2人はDVDや植木鉢など目の前にあるものを次々と武器にしては闘い、それを映画の観客がひいきの選手に見立てて応援するという図式である。幸運の数字「ラッキー・セブン」を冠した「7号室」は彼らに幸運をもたらす場所になるかもしれないが、最後の希望を打ち砕く抑圧社会の象徴にもなりうる。
彼らの夢が成就するかどうかは、彼らの生き方が観客から共感を得られるかどうかにかかっているともいえるかもしれない。映画の終わり方を見て、イ・ヨンスン監督はそう思い観客に判断を委ねたに違いないと確信した。夢がかなったのかどうか、そうでもないのか、ぜひとも最後までご鑑賞いただきたい。
付け加えると、シン・ハギュンはベテランらしく最後まで魅せたし、若手のD.O.(ディオ)も内心を表わす大きな目が印象深かった。
「7号室」は8月4日よりシネマート新宿ほか全国順次公開
【紀平重成】
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