第681回 「SUNNY 強い気持ち・強い愛」

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」に出演の篠原涼子(左)と広瀬すず(C)2018「SUNNY」製作委員会
あの頃は楽しかったねと自分の輝いていたころを振り返る元女子高生仲間。卒業して20年以上たち、現実はそれぞれが問題を抱えため息もつく。日本でもヒットした韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」(2011年)をリメークした青春音楽映画の日本版だ。同じメンバーの過去と現在が交互に描かれるという基本的な構成は同じだが、オリジナルの韓国版では1980年代に高校生だったストーリーを90年代の日本に置き換えた。ルーズソックスを履き、小室哲哉の音楽に酔いしれる女子高生を描くなど世代の重なる人たちには共感しやすい内容となっている。
高校生役の6人の女性と20年数年後の大人役5人の計11人がスクリーンを所狭しと歌い踊るのだから何とも華やか。主役の奈美を広瀬すずと篠原涼子がダブルで演じるほか、板谷由夏、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美らが顔をそろえているのも話題になっている。

親友だった芹香(板谷由夏=左)と病院で再会した奈美(篠原涼子)(C)2018「SUNNY」製作委員会
専業主婦の奈美(篠原涼子)は夫と娘の3人暮らし。何不自由なく暮らしながらも物足りなさを感じていた。そんなおり、奈美は高校時代に大の仲良しだった芹香(板谷由夏)と久しぶりに再会する。しかし、芹香の体は末期がんに冒されていた。「死ぬ前にもう一度みんなに会いたい」。彼女の願いを実現するため、奈美は元の級友を探し始める。
オリジナルの韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」では映画のタイトルにも使われたボニー・Mの「sunny」が何度も流れ、そのノリのいい曲が映画に勢いを与えていたが、日本版では小室哲哉が音楽を担当。安室奈美恵の“SWEET 19 BLUES”、“Don’t wanna cry”など自身プロデュースの楽曲5曲や、小沢健二の“強い気持ち・強い愛”など90年代の楽曲11曲を使用し、韓国版にも負けない充実ぶりだ。本作は小室哲哉の最後の映画音楽になると本人が発表している。

大の仲良しだった高校時代のメンバー (C)2018「SUNNY」製作委員会
ところで韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」を初めて見たときに感じたのは文化の類似点だった。具体的にいえば生活が安定しているにもかかわらず「物足りない」と感じる専業主婦がどちらの国にもいるということである。映画にも出てくるから一定の層をなしているのだろう。韓国の軍事政権と日本の長期保守政権という当時の政治体制の違いはあっても、高度経済成長という共通の体験があるからこそ、経済成長を効率的に側面から支えた専業主婦層が増産され、なおかつ幸せを実感しきれない人たちの存在や感覚も理解されるのだろう。

奈美(広瀬すず=左)が胸をときめかす大学生の藤井渉(三浦春馬)(C)2018「SUNNY」製作委員会
同じ韓国映画のリメークシリーズとして各国で制作された「怪しい彼女」にも同じことが言えるだろう。自分より子供世代に良い教育を受けさせようと頑張って来た親世代の一人である高齢の女性が突然二十歳の体になって、自分が若いころに出来なかった歌や買い物を楽しむというお話は経済成長が遅れて始まったアジア各国で熱狂的に支持されている。
この二つの例から言えることは、経済成長や教育、ライフスタイル等のアジアにおける均一化が進み、それを上手く映画に取り込めば、「アジアに共通するおとぎ話」を紡ぎ出すことが可能になっているということだろう。それに成功したのが韓国映画ということである。実際に韓国の映画制作・配給の大手であるCJはベトナムでの映画制作と映画館経営の双方に力を入れている。映画に関わるすべての段階で収益をあげ、それを世界に広げていこうという壮大な計画を進めているのだ。
映画の世界市場を席巻するハリウッドが、世界のどの国でも理解される作品作りをというフレームに縛られて逆に脚本のマンネリ化を招いていくのを横目で見ながら、アジアの作品がアジアにおける共通体験という普遍性を得て、なおかつ個性も維持する作品を作り続けていけば、抱える人口の多さもプラスに働き、間違いなく21世紀中葉の世界映画の勢力図はアジアにシフトしてくると言えるのではないだろうか。

当時の衣装を身につけてカラオケで熱唱するメンバー (C)2018「SUNNY」製作委員会
仮にアジアが近い将来、世界の映画市場の拠点になるとして、その担い手は先行する韓国か、巨大人口を抱える中国か、それとも日本なのか。本作には物足りない生活やギャンブル依存症、ブラック企業、夫の暴力等々陰の部分もいっぱい出てくる。女の時代ともてはやされながら、格差、暴力、女性差別といった本質はこの数十年、全く変わっていない。つまりは映画のテーマにも事欠かないということなのだろう。
昔を振り返って、あのころを懐かしむだけでは終わらないラストをかみしめながら、すべての観客が「自分の物語だ」と思えたらすばらしい。
「SUNNY 強い気持ち・強い愛」は8月31日より全国公開
【紀平重成】
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(C)2018「SUNNY」製作委員会